教師から生徒への性暴力に気づいた“保健室の先生”、加害者を突き止めようとするも「立ちはだかるカベ」とは?<漫画>

教師から生徒への性暴力に気づいた“保健室の先生”、加害者を突き止めようとするも「立ちはだかるカベ」とは?<漫画>

性被害によるトラウマが、こんなに長くつづくとは知らなかったーー漫画家の、さいきまこさんは言う。

新刊『言えないことをしたのは誰?』(現代書館)は公立中学校が舞台で、主人公の神尾莉生(かみお りお)は養護教諭、いわゆる“保健室の先生”だ。


保健室をよく訪れる女子生徒の不調の原因が、教師からの性暴力にあると気づいた莉生は、被害者に寄り添い、加害者を突き止めようとする。が、その道のりは険しい。一歩進むごとにレイプ神話、セカンドレイプ、教育現場の問題、さらには法律の問題といった、さまざまな壁が立ちはだかるからだ。

本記事では、同作の上巻から一部を抜粋して紹介。綿密な取材のうえ本作を描ききったさいきさんに話をうかがった。












『言えないことをしたのは誰?』著者のさいきまこさんは、学校内性暴力という、性暴力のなかでも特に表に出てきにくいものを描くために、連載に先駆けて1年以上を取材に費やしたという。

そのなかで思い知ったのが、性暴力被害者がトラウマを抱えながら生きる時間の長さだ。

さいきまこさん(以下、さいき)「性暴力は被害に遭っているそのときがつらい、というイメージが社会に根強くあると思います。だから『忘れて、前を向きなさい』と被害者に声をかける人がいる。その瞬間の記憶を捨て去ることができたら、あとは立ち直れるでしょう、という意味なのだと思います。

これはセカンドレイプのひとつですが、トラウマが何年どころか何十年、人によっては一生を支配されるほどつづくと知らなければ、これもよかれと思っての声がけになるのでしょう」

災害より長くつづくPTSD


トラウマ体験には戦争や被災、交通事故なども含まれるが、それらと比べても性暴力被害はその後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)となる確率がずっと高いことが、世界規模の研究でわかっている(*)。PTSD診断の平均持続時間についても、性暴力被害の場合は110カ月、事故災害の場合の41.2カ月とは大きな差がある。

*Kessler, R. C et al.(2017). Trauma and PTSD in the WHO World Mental Health Surveys. European Journal of psychotraumatology. 8(sup5)

さいき「スクール・セクシュアル・ハラスメントの防止と被害者支援を目指す団体への取材で、相談の電話をかけてくるなかには60、70代の人もいると聞きました。その年齢になるまで、ずっと誰にも言えなかった。それどころか、自分が性被害を受けたのだと気づきもしなかった人もいると思います」

主人公の養護教諭・莉生が出会った被害女性・円城遥(えんじょう はるか)は、それを「時限爆弾」と表現する。いつ爆発するかわからない時限爆弾を抱えて生きる、その人生がいかに困難か。

自分を責めるしかなかった

さいき「そうして相談される方たちも、60、70代まで時限爆弾が爆発しなかったわけではなく、早々に爆発していた人も多いと思います。でもそれがたとえば、『中学のときに先生から受けた性暴力』が原因だ、と気づくのはむずかしい。

遥も精神科を受診し、うつ病の薬を処方されていました。けれど服薬しても、まったくよくならない。本当の原因にたどり着いていないからです。ずっと不安定で、何をやってもうまくいかず、自分はダメな人間だと思う……電話相談してくる60、70代の女性たちも、そんなふうに自身を責めながら生きてきたのではないでしょうか」

文部科学省の調査(2022年「人事行政状況調査」)によると、児童生徒または18歳未満の子どもに対し性暴力を行ったとして、2022年度に処分を受けた公立学校教員は、119人。いうまでもなく氷山の一角に過ぎないが、1人の教師が出した被害者が1人とはかぎらない点にも注意が必要だ。

『言えないことをしたのは誰?』の加害教師も、何年にもわたって複数の女子生徒を毒牙にかけていた。校内で加害行為をしていながら発覚しなかったから、つづけてこられた。なぜそんなことが可能なのか?

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