生徒に向き合おうにも…
さいき「そうした状況は、権力を持った加害者にとってはたいへん都合がいいだろうと想像できます。そのわりに、これは作中の男性教師がつぶやいたセリフでもあるのですが、『教師が自分の権力性に無自覚すぎる』んです。いまの学校現場で、加害教師が動きにくい環境を整えられるかというと、非常に絶望的な気持ちになります」
昨今の教師は、多忙を極めている。過重労働で精神を病んだり志半ばで離職したりするケースがあとを絶たず、その影響で教師不足が深刻化している、というニュースを日常的に見聞きする。
さいき「事務仕事が終わらないとなると、生徒の話を聞く時間を削るしかない。ひとりひとりの生徒を見ていたら、身が持たない。向き合おうとする教師ほどつぶれてしまうのだろうと思わされました。この環境こそが、加害教師の思うツボ。生徒に目が向かない、同僚の動きにも目が向かないとなれば、やりたい放題できますよね」
主人公と被害生徒を阻む壁
主人公・莉生も私生活を投げ売って、生徒を守るために走った。それによってはじめて、小さな声を聞き取ることができた。
しかし「生徒が被害を受けた」ことを信じてもらうには、まだいくつもの壁があった。“厄介事(やっかいごと)”をきらう学校組織、教師にも親にも刷り込まれているレイプ神話……。
莉生と同僚教師、被害に遭った生徒たちがその壁をどう崩していくのか。『言えないことをしたのは誰?』を、フィクションの世界の出来事としてではなく、「現実に起きていること」として見守ってほしい。
<取材・構成/三浦ゆえ>
【三浦ゆえ】
編集者&ライター。出版社勤務を経て、独立。女性の性と生をテーマに取材、執筆を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(宋美玄著、ブックマン社)シリーズをはじめ、『50歳からの性教育』(村瀬幸浩ら著、河出書房新社)、『リエゾン-こどものこころ診療所- 凸凹のためのおとなのこころがまえ』(三木崇弘著、講談社)、『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)などの編集協力を担当。著書に『となりのセックス』(主婦の友社)、『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。
配信: 女子SPA!
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