西野カナの復帰作にガッカリ。かつて“カリスマ”でい続けることができた理由

西野カナの復帰作にガッカリ。かつて“カリスマ”でい続けることができた理由

「トリセツ」では愛情へとストーリーが進化。成長にあわせた女性誌のよう

 それは、その後大きく花開きます。「Darling」(2014年)、「もしも運命の人がいるのなら」(2015年)、「トリセツ」(2015年)は三部作と呼ぶべき完成度を誇ります。

 特に“女性版「関白宣言」(さだまさし)”と言われた「トリセツ」の歌詞は、またしても話題を呼びました。


<一点物につき返品交換は受け付けません ご了承ください>

<爪がきれいとか小さな変化にも気づいてあげましょう>

<広い心と深い愛で全部受け止めて>

 このように、男性に対する要求を箇条書きのように羅列(られつ)していく作風に、幼稚だとの批判もありました。

 けれども、これは歌詞に西野カナの人格を投影しているのではなく、架空のシチュエーションを作って、さらにその中で最もわかりやすい文法をあえて使っているわけです。

 作家性を追求するよりも、曲を製品にみたてて、誰もがアクセスできるユニバーサルデザインとなるように仕上げているのです。

 そして注目すべきは、20代前半で書いた<会いたくて震える>から、ストーリーが前進している点です。発情期から愛情へときちんと移行している。サウンド面でも、ハイテンポでダンサブルだったものが、アコースティックで優しい響きになっている。

 こうした年齢ごとの変化、成長を正確にとらえる嗅覚は、女性ファッション誌を彷彿(ほうふつ)とさせます。西野カナのカリスマ性は、このプロデュース能力にあるのだと思います。

新曲に結婚と出産を経た人生観を期待したが拍子抜け

 それを踏まえて新曲「Eyes On You」を聞いてみると、今回はテーマ設定があいまいだと感じました。作曲は「会いたくて 会いたくて」を手掛けたGiorgio Cancemi。原点回帰といったところでしょうか。

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 しかし、肝心要の歌詞にフックがない。結婚と出産を経た人生観が反映されているのかと期待しましたが、具体的なフレーズはなく、恋愛に関する漠然(ばくぜん)とした表現がつらなるのみ。

 いま西野カナが思うことが中途半端に主張されているといった具合で、そこには明確なアイデアがありません。印象に残ったのは、カッコいい英語の発音のみ。(正確かどうかは知りません)

 そんなわけで、「Eyes On You」には拍子抜けしてしまいましたが、今後発表されるであろう新曲に、かつてのようなきらめくフレーズは登場するのでしょうか?

 西野カナは、カリスマでありつづけるかどうかのターニングポイントに立っているのだと思います。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4

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