さわやかな活字中毒者
だけどここは姉として、弟の好きな道を歩んでほしい。第42回では、一家を支える柱のひとつになりながらもこっそり隠れて、一冊だけ売らずに手元に置いた本のページを何度でもめくる。台所に座り込んで、一行一行食い入るように熱心に見つめる。
直明は単に優秀なだけでなく、根っからの本の虫なのだ。そんな弟の姿を見た寅子は、一度弁護士の看板を下ろして押し入れにしまい込んでいた法律書を直明に貸す。
直明は、「えっ、いいの?」と目を見開く。自分の専門分野でなくとも、目の前に本があり、文字が書かれていたら、それだけで読みたくてたまらない。こんなにもさわやかに貪欲な活字中毒者が彼以外にいるだろうか?
大きな見せ場で好演
猪爪家の愛くるしい次男を演じる上で、三山は意気込み十分ながら、演技自体が力むことはない。彼は自分の個性を主張することよりも役柄との対話を徹底的に優先しているように見える。
ほんとにまっさらな状態の三山凌輝を直明役に差し出している感じ。こうした柔軟さは、パフォーマーとして培ってきた持久力と忍耐力に裏打ちされたものだろう。役と並走しながら、リズミカルにきちんと演じる。
寅子が家庭裁判所設立に奔走する第11週第55回は、直明の大きな見せ場だった。家事部と少年部を和解させるべく、寅子は戦災孤児を支援する直明の力を借りることにした。純粋にボランティア活動をする彼が訴えれば、家事部と少年部がうまく結束するはずと考えたのだ。
猪爪家の家庭内でも、「なんてキラキラした目」とナレーションで説明される通り、家族たちは直明に心底惚れ惚れしている。寅子が勤務する家庭裁判所準備室をたずねて説得を試みる直明のキラキラ効果は絶大。本作の脚本のト書きには「目がキラキラしている」と書いてあったらしい。自分がどう画面上に写るのかを心得た三山が役にググッとコミットする好演だった。
配信: 女子SPA!