父子家庭の実情
ひとり親世帯といえば母子家庭にスポットが当たりがちですが、父子家庭も増加傾向です。子育てと仕事の兼ね合いや養育費など、生活に直結する悩みを抱えるシングルファーザーもたくさんいます。
ひとり親世代の約15%は父子家庭
2016年度の「全国ひとり親世帯等調査結果」では、母子家庭が約123万1600世帯に対して、父子家庭は約18万7000世帯となっています。
母子家庭とは桁がひとつ違いますが、ひとり親世帯の約15%を占めることを考えると、決して少ない数ではありません。
1988~2011年の25年間で母子家庭は約1.5倍・父子家庭は約1.3倍に増加しており、今後も増え続けることが予想されます。
子育てと仕事の両立が大きな悩みに
年間の平均就労収入は、母子家庭よりも父子家庭の方が高いとされています。しかし、仕事中心の生活になればなるほど、親子で過ごす時間が減ってしまうのが悩みの種です。
「平日1日あたり2時間以上子どもと過ごしている」と回答した人のうち、母子家庭が81.9%に対して父子家庭は65.5%というデータもあります。さらに、父子家庭の5分の1は平日1時間未満しか子どもと過ごしておらず、一緒に夕食を食べない家庭も珍しくありません。
ひとり親で稼ぎ手にもかかわらず「子育てを優先すれば会社での地位も収入も諦めざるを得ない」というジレンマを抱えながらも、子どもとの時間を確保するために転職するケースも見られます。
「子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査」| 独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)
父子家庭でも養育費を請求することは可能
子どもに対する「扶養義務」は、離婚した後もなくなりません。養育費の支払い義務は「両親」に課せられるため、父子家庭でも「20歳以下の子どもがいる場合」は養育費を請求できます。
とはいえ、養育費をもらっていない父子家庭が大半です。2011年度の「全国母子世帯等調査」では、養育費を受け取っていない母子家庭が80.3%に対し、父子家庭は95.9%という結果が出ています。
相手の経済力など様々な理由があげられますが、養育費を請求されたことで「それなら親権は譲らない」と裁判沙汰にならないとも限りません。
裁判の結果、妻に親権が渡ってしまう可能性もあるため、養育費を泣く泣く諦める人もいると考えられます。
父子家庭を支える制度
各自治体が行っているひとり親世帯への支援は、母子家庭に限らず父子家庭も対象です。全国的に実施されている児童扶養手当や医療費の支援制度以外に、独自の補助を実施している自治体もあります。
医療費や児童扶養手当などは母子家庭と同様
各自治体が実施しているひとり親世帯への「医療費の支援制度」や「児童扶養手当」は、所定の条件を満たしていれば父子家庭でも受けられます。
医療費の支援内容や期間などは自治体によって異なりますが、多くの自治体では「一部無料」もしくは「実質無料」で受診可能です。
児童扶養手当はひとり親世帯の生活の安定と自立の促進を目的とした手当で、扶養する子どもの人数に対する親の前年所得額などに応じて支給額が変動します。
所得の限度額は2段階で「全部支給」か「一部支給」の対象に当てはまれば、受給できる仕組みです。たとえば、子どもが1人で「全部支給」に該当する父子家庭は、1カ月あたり4万2910円受け取れます。
住宅費の助成金が受け取れる自治体も
自治体によっては、ひとり親世帯の家賃を一部補助する制度を設けています。家賃は毎月かかる固定費とはいえ、大きな割合を占めることから家計を圧迫する場合もある出費です。「一部でも支援してもらえる」と助かると感じる人も多いでしょう。
東京都武蔵野市の場合は、家賃の補助として月額1万円を支給しています。同市内に引き続き半年以上滞在しており、所得制限などの条件を満たしているひとり親世帯が対象です。
ほかにも、埼玉県蕨(わらび)市では、条件を満たした場合に家賃額に応じた助成を行っています。1年以上市内在住で、前年分の市民税が非課税のひとり親家庭に向けた支援です。このように、多くの自治体がひとり親の支援に積極的に取り組んでいます。
母子家庭との大きな違いは?
父子家庭も母子家庭と同様の支援を受けられるようになってきましたが、条件や内容が異なる制度もまだまだ残っています。特に「寡婦(寡夫)控除」と「遺族厚生年金」は、同じひとり親世帯でもその差は歴然です。
寡婦(寡夫)控除の条件が異なる
女性のひとり親である「寡婦」と男性のひとり親である「寡夫」は、一定額の所得控除を受けられます。ただし、寡婦と寡夫では、条件も控除額も異なるのが現実です。
寡夫は「配偶者と離婚・死別もしくは配偶者の生死が明らかでない」「生計を一する子どもがおり、所得金額の合計が500万円以下」という二つの条件を満たす必要があります。
一方、寡婦は「扶養親族」がいる場合も、控除の対象です。親族で扶養している人がいれば対象になります。
子どもまたは扶養親族がいない場合も、所得金額の合計が500万円以下であれば控除を受けられる点も大きな違いです。
控除額にも、差があります。寡夫は一律27万円に対し、寡婦は条件のどちらかを満たすと27万・両方を満たすと35万円が控除される仕組みです。
遺族厚生年金は年齢に達していないとゼロ
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があります。遺族基礎年金は、国民年金の被保険者かつ子どものいる寡婦または寡夫が対象です。
配偶者が亡くなった際、子どもが18歳になった最初の3月31日(高校生相当年齢)まで受給できます。以前は「子どものいる妻」のみで、妻を亡くした夫は対象外でした。現在は、妻の死亡が2014年以降の場合は夫も受給できます。
遺族厚生年金は、厚生年金の加入者が死亡した場合に遺族が支給できる公的年金です。遺族基礎年金とは異なり子どものいない場合でも受け取れますが、寡夫の場合受給には条件があります。
夫は、妻の死亡時に自身が55歳未満の場合、受給の対象になりません。仮に55歳以上でも、受給が開始されるのは60歳になってからとなります。
父子家庭の深刻な問題とは
父子家庭は、地域でも会社でも理解を得にくいのが悩みの種です。父子家庭の不安を解消すべく、交流のきっかけをつくるイベントや電話相談などのシングルファーザーの心を支える取り組みも広がっています。
社会的孤立に陥りやすい
「妻がいるときに長時間働いていた」などの理由で、近隣の人や地域と関わってこなかった人もいます。困ったときに気軽に質問や相談できる相手がおらず、疎外感を覚えることもあるでしょう。
親族からも「嫁に逃げられて情けない」などと突き放されてしまい、頼るべきところを1人で抱え込んで、ますます孤立することも考えられます。
子どもがある程度大きくなるまでは、PTAや子ども会などでほかの保護者と接する機会も豊富です。しかし、大半はママのみが参加するため「輪に入りにくい」と感じる人もいます。
育休や時短勤務など、会社の理解を得にくい
「育児・介護休業法」では「育児休業」「短時間勤務」「子の看護休暇制度」「時間外労働の制限」などの支援制度が定められています。
育休をとりやすい環境が整っていれば、キャリアを失わずに育児に専念でき、会社側も戦力の流出を防げるでしょう。しかし、男性の利用実績がない会社も多く、ひとり親にかかわらず男性が取ることに対して理解を得にくいのが現状です。
たとえば育児休業の利用状況は、2018年度の「雇用均等基本調査」によると、女性が87.9%に対して男性は8.6%となっています。休みたくても休めない労働環境によって、子どもとの時間がますます減ってしまうことも考えられるでしょう。
交流イベントや電話相談の積極的な活用を
シングルファーザーが1人で悩みを抱えないように、父子家庭同士の交流場や相談窓口が設けられています。神奈川県横浜市が主催の「父子家庭のひろば」では、父親同士が悩みや考えを語り合ったり料理を学んだりすることが可能です。
ひとり親の孤立を防ぐ目的で、親も子どもも楽しめるイベントの実施や行政・専門家などと連携して役立つ情報を提供しているサークルもあります。電話相談のなかには日曜や祝日も相談できる窓口があり、仕事などで忙しい人も気軽に利用可能です。
まとめ
父子家庭も母子家庭と同じように受けられる支援もある一方、条件や金額に差がある制度がたくさん残っています。子育てを優先したくてもできない労働環境など、問題もまだまだ山積みです。
地域ではママ中心のコミュニティが多く、シングルファザーは孤立しやすいともされています。支援制度の充実を図るだけでなく、社会全体が父子家庭に理解を示すことが大切といえるでしょう。