毎日何気なく目にする交通標識。実は、標識は数百種類以上もあり、地域によっても個性がある。その魅力に惹かれた道路標識マニアさん(@roadsignmania)は、各地の標識の情報を集め、SNSで分析・紹介している。珍しい標識からその背景にあるエピソードまで、交通標識の奥深い世界を聞いてみた。
■動物標識の図柄は160種類を超える
道路標識マニアさんの“マニア歴”の始まりは3歳まで遡る。6歳のときには道路標識をすべて暗記していたほど。2021年夏の東京2020 夏季オリンピック開催時に期間限定の特別な道路標識が設置されたが、その撮影がきっかけで記事を書くようになったという。
その中で、特に反響が大きかったのは「160種類以上もある!? 地方色豊かな “動物注意” 標識」。正式には「動物が飛び出すおそれあり」と呼ばれる標識のことで、主に郊外や山間部をドライブしているとき、シカなど動物のシルエットが描かれた黄色い標識を見たことがある人も多いだろう。
実はこの標識、同じ動物でも地域によってかなり絵柄が違う。法令を見てみると、「動物が飛び出すおそれあり」の標準的な絵柄としてまずシカのシルエットが示され、「シカ以外の動物が飛び出すおそれがある場合には、適宜、当該動物の形状を表す記号を表示する」となっている。つまり、必ずこの絵柄を使わなければいけないという、厳密な統一デザインはない。
「このバリエーションが何種類くらい、また全国にどれくらいあるのかまとまった情報がネットにもなかったので、発信しようと調査を始めました」。2400カ所を超える動物注意標識を日本地図上にプロットするなど、膨大な調査の過程でいくつかおもしろいことがわかってきたという。
まず、「イノシシ、ウシ、タヌキはそれぞれ約30種類もの異なる図柄が存在します。シカ、タヌキ、サル、ウサギの4種類は警察庁から“標準形”が通達されているのですが、そのタヌキでさえ30種類ものバリエーションがあり、そこまで個性を出して自己主張しなくても…と感じてしまいました!標識を見る側から見てわかりやすいのかは疑問ですね…」
標準形というのは、製作の際の見本となる一番オーソドックスな「タヌキのシルエット」なのだが、同じシルエットタイプでも微妙に標準形と異なっていたり、さらにはコミカルなイラストの図柄もあったりしておもしろい。
もう一つは、地方によって動物の種類に特徴があること。北海道はシカ、ウシ、キツネ、クマが多く、東北はカモシカ、タヌキ、関東地方から中部、近畿地方はタヌキ、イノシシ、シカが多いそう。中国、四国地方に行くとシカはあまり見られなくなり、タヌキ、イノシシが目立つように。九州はタヌキ、イノシシが主流になる。
また、同じシカの絵柄でも、標準形の「シカ」は角が前向きに生えているが、実際のニホンジカやエゾシカに近づけて、角の向きが逆になっているバージョンもある。
さらに個性的なのは離島地域。「沖縄や離島には、ヤンバルクイナ、ヤギ、カメ、ネズミ、ヤマネコ、オオヤドカリ、トリなどの変わった“動物注意”があります」
中には地元の小学校の生徒が描いた動物の絵が採用されている正式な標識もあるとか。「動物注意標識は図柄が厳密に決まっていない(自由な)ので、いろいろな人の創造力もかきたてるのでしょう」
■標識の「裏」にも地域性がある
さらにマニアックな視点で踏み込んだ記事もある。マニアでなければまず気にも留めない「標識の裏側」だ。
道路標識マニアさんによると、「交通標識は、設置された時期や都道府県によって素材や構造が異なっています。標識の『裏側』のリブと呼ばれる構造物にもその特徴が現れています」。リブとは、薄い標識の裏側にある、棒状の補強材のこと。水平に取り付けられ、支柱と標識をつなぎ固定する。基本的には「高リブ」「平リブ」「三点止Rリブ」の3パターンあるという。
子どものころから標識の裏側をチェックするのを趣味にしていたという道路標識マニアさん。「最近になって、構造の違いを47都道府県別の地図にしてみて、分布に特徴があることも発見しました」
各都道府県公安委員会が設置する標準サイズの規制標識、指示標識の裏側のリブの仕様を見ると、たとえば東京を始めとする関東周辺は「三点止Rリブ」、それ以外は「平リブ」が主流。その傾向を踏まえ、道路標識マニアさんはなんと全国の標識の裏、リブのパターンの分布図を作成した。
道路標識マニアさんの興味を何よりかき立てるのは、都道府県ごとの設置方法、内容、特徴などの違いだ。「たとえば、『★合図』という道路標示は岡山県にしかなかったり、(都市伝説を元に)“宇宙人が女児誘拐”と呼ばれる『歩行者専用』の標識の図柄も兵庫、大阪あたりでは図柄が異なっていたりと、調べれば調べるほど奥が深いことがわかりました。今では、設置されている標識の写真を見ると、どこの都道府県なのかがある程度絞り込めるようになったんです」
■「実際に見に行ってきた」という読者も
こんなに多くの情報をどのように収集しているのかと聞くと、「インターネット上で標識を集めて掲載している人や、ブログなどで何気なく情報をあげてくれている人の情報、およびSNS上で情報を報告していただいている全国に散らばる有志の皆様の情報網などです。聞く人がいない(人に聞いてもわからない)写真は、映っている情報から場所を特定する必要がありますが、その照合に一番苦労します」
読者からの反響については、「『自分も実際に見に行ってみたい』『見に行ってきた』という反応をいただくこともあります。私の記事の影響で行動されていることについては、感謝ですね。また、読者の中には日本全国を飛び回る趣味・仕事の方も結構いて、おもしろい道路標識・道路標示の場所を丁寧に報告いただく場合もあります。だいぶ助けられています」
最初に紹介した動物注意標識マップについては、「おそらく全国に4000カ所くらいあると思われるので、現在の(プロット数)2400カ所からできるだけ多く増やしていきたい」とのこと。今後もさらに蓄積されていくであろう、道路標識のユニークな楽しみ方に注目したい。
取材・文=折笠隆
配信: Walkerplus
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