【いじめ】で頑張れは逆効果!子どもの安全・安心が最優先な理由

第2回 「いじめられた精神科医」編集者が語る”いじめの構図”
もしもわが子がいわれのないいじめを受けたら、親はどう向き合い、どうアドバイスするべきか。いじめ問題が次から次へと浮き彫りになる昨今、なかなかその答えは出にくいが、ここでは、子どもでも読める「いじめのある世界に生きる君たちへ」(精神科医・中井久夫著)の構成を手掛けたふじもりたけし氏に取材。自身も壮絶ないじめを経験した中井先生の教えを胸に、ふじもり氏が、“親が子にかけるべき言葉”を聞いた。

●親の「頑張れ!」が命取りになることも

「ケースバイケースだとは思いますが、親の頑張れモードが、時に命取りにもなります。いじめられている時、子どもは、学校という“嫌なことを嫌と言えない小さな閉じられた世界”に放り込まれているようなものです。いじめは圧倒的な力での人間支配です。親の『いじめに負けるな』という忠告に従って言い返したら、ますますやられてしまう。親が『自分で解決しなさい。嫌なことは自分で言いなさい』と突き放せば、被害児童は“親からも見捨てられた”と思ってしまうかもしれません。“親の言うことも聞けない悪い子”と自分を責め、どんどん自分で自分の評価を下げていくことにもなります」(ふじもり氏 以下同)

「いじめに関して強くなる必要はない!」と熱く語る。

「“わが子を強く優しい人間に育てたい”というのは、親の切実な願いですね。でもいじめに関して言えば、その強さはやり返す強さではありません。いじめに加わらない強さであり、人間を大切にする強さであり、できれば誰かがいじめられていたら『いじめなんかかっこ悪いよ』と言える強さです。いじめられている時、子どもは耐えて精一杯がんばっている状態です。その時『もっと強くなれ』というメッセージは、NGではないかと思うわけです。いじめは基本的に、被害者が個人的に抵抗して何とかなるような世界ではありません」

いじめに遭ったら

●子どもの側に立ち、”守りきる”というメッセージが大切

いじめの〝罠のような構造〟を語ると、子どもの心も救われるそう。

「いじめが自分が劣っているせいではなく、人間を支配する罠にはめられているだけなんだと分かると、子どもは、少し心に余裕を持てるようになります。中井先生の論文を子ども向けに編集したのも、わが子に中井先生の論文の内容を語って聞かせた、ある父親のエピソードがきっかけです」

子どもの立ち直りは、すべて安心、安全を確保してから始まる。

「いじめは、人間としての尊厳や余裕をなくしながら、他人から奴隷のように支配されていくプロセスです。その状態から脱するには、安全と安心の保障が絶対に必要。そのためにも、『あなたは悪くない』『あなたを守る』という親の言葉と実行がとても大事になるわけです。たとえば、『学校に行かなくてもいいよ』という一言が救いになります。安全に守られた子は、やがていじめ被害の過去を自分なりに整理し、自分と他人への信頼をとりもどし、立ち直っていきます」

深刻な場合は、信頼できる心理士や精神科医のアドバイスも仰いだ方がいいとふじもり氏は語る。

「学校や国や自治体、市民団体などもあります。それらがいい活動をすることを願います。深刻な場合、気が合って、的確なアドバイスのもらえる心理士や精神科医の助けが必要な時があります。いじめはフラッシュバックも起きますからその面でも有効です。本の著者の中井先生は、阪神淡路大震災の時、被災者の心のケアの陣頭指揮をとりながら、ご自身の小学生時代のいじめ体験がフラッシュバックしたと聞いています」

わが子が言われのないいじめを受けた時こそ、親が子の自己肯定感をフォローすることが必要。「あなたは100%悪くないし一人じゃない。 私たちが一緒に戦うから大丈夫!」親が繰り返し繰り返しそう伝え、実行することで、子どもは絶望の淵から生還できるのかもしれない。



(取材・文/吉富慶子)

お話をうかがった人

いじめ対策
ふじもりたけし
1960年東京都生まれ。1985年、東京大学教育学部卒(教育史教育哲学コース)。現在、日本共産党文教委員会責任者を務める。
1960年東京都生まれ。1985年、東京大学教育学部卒(教育史教育哲学コース)。現在、日本共産党文教委員会責任者を務める。