遺影や仏具のあるスペースを“明るい場所”として
――お客さんにはどのような想いで仏具を届けているのでしょうか。
大切な人と話せない、触れられないことは、本当につらいことです。そういうつらさがあるからこそできる限りのことをしたいと思いますし、お客様がほしいと思うものを一生懸命考えて制作するようにしています。
大切な人を亡くした経験から、悲しみが再び襲ってくるのではないかと思ったり、家族の間で気を遣って話せなくなってしまったりすることは珍しくありません。ですが、故人にぴったりの場所があれば、たとえば「今日こんなものを買ってきたよ」という会話が生まれるでしょう。なので遺影や仏具のあるスペースは“明るい場所”として、お客様に提案したいと思っています。
――ご自身の経験からも仏具や仏壇という存在が、お子さんの死を受け入れるきっかけになったと感じていますか。
うちの家族に関しては、娘のための場所があることで、家族全員で娘を認識し、“仏様”という特別な存在ではなく家族の一員として受け入れています。私自身も、大きな変化があります。これまでは花を飾る習慣などは私にはなかったのですが、季節の花を仏壇に飾るようになりました。お盆には季節の野菜を使ったお盆飾りをするようになりました。娘がいろいろなことを教えてくれているような気がします。
亡くなった娘へ、今思うこと
――そういう意味では、遺影や仏具を置く空間自体が心の拠りどころになっている部分もあるのでしょうか。
そうですね。ママさんたちの間では「我が子のおうち」という表現がよく使われるんですね。その子の居場所としてリビングやダイニングなどがあり、そこに向かい合うことや空間を大切にすることが、その子の存在を感じる場所として重要な役割を果たしていると思います。毎日、仏壇で行うようなお線香やお水のお世話、お花の手入れなども、存在を感じられる大切な日常の一部です。
日本では、宗教の有無に関わらず、大切な人がいる場所はさまざまな形で存在します。たとえば、虹を見たり空を見上げたりすることで、大切な人との結びつきを感じることもありますし、墓や仏壇がその思いの拠りどころとなることもあります。そのような形で、“我が子のおうち”として、大切な存在を感じられる場の一部として機能しているのかもしれません。
――お仕事を通して娘さんを感じる瞬間はありますか。
この仕事は私がやりたいことであり、娘がいたからこそ続ける力が湧いています。今でも空の上で娘が見守ってくれているような、一緒にやっているような感覚があります。大変なこともありますが、「お母さんがんばってるよ!」と思っていますし、娘が背中を押してくれているおかげで前に進めています。本当にすごい娘です。
――誰もが経験する死ですが、誰かの死を乗り越えられていない人、大切な人を亡くしてつらい思いをしている人はたくさんいると思います。そんな方たちに向けてメッセージをお願いします。
他人が何を言っても、それを受け入れることはできません。私が娘を亡くしたときもそうでしたが、どんな言葉も耳に入らないというか、状況は何も変えられません。よくグリーフケアでは「そのままでいいんだよ」と言いますが、いろんな感情に自分が飲み込まれないように、いろんな方を頼っていいと思います。私ができることは大切な方のお品を一緒に作ることしかありませんが、少しでも悲しみに寄り添う活動ができたらいいなと思っています。
<取材・文/Honoka Yamasaki>
【Honoka Yamasaki】
昼間はライターとしてあらゆる性や嗜好について取材。その傍ら、夜は新宿二丁目で踊るダンサーとして活動。
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