ミレイ『オフィーリア』の文学的背景
ミレイ『オフィーリア』, Public domain, via Wikimedia Commons
ミレイの『オフィーリア』は、シェイクスピアの戯曲『ハムレット』をモチーフにしています。ハムレットは1599年から1601年にシェイクスピアが手掛けた作品で、英国文学における最高峰の作品の1つです。
作品名の『オフィーリア』は、戯曲の登場人物であるオフィーリアに由来します。オフィーリアは主人公の王子ハムレットと隠れて恋人関係にありましたが、徐々に周囲から王子との身分違いの恋を反対されるようになりました。
しかしオフィーリアの父ポローニアスは、ハムレットの行動や言動を見ているうちに、オフィーリアへの恋心にハムレットが狂いかけていると考えるようになります。
一方前王の死をめぐる疑惑を抱えていたハムレットは疑心暗鬼に陥っており、母で王妃であるガートルードと密会している最中にポローニアス(オフィーリアの父)を殺していまいます。事実を知ったオフィーリアは悲しみで正気を失ってしまいました。
気がふれたオフィーリアは足場の悪い場所で花を摘んでいる際に川に転落します。オフィーリアの重いドレスはどんどん水を含みますが、オフィーリアは意に介さない様子で花輪を握りしめ、歌を口ずさみながら川底に沈んでいきました。オフィーリアの死は「自殺」と判断されます。
ミレイが描いたのは、オフィーリアの「自殺」シーン、今まさに川底に体を鎮めようとしている彼女の姿です。オフィーリアの死のシーンは芸術界でもしばしばテーマに取り上げられるほど、人気があります。
ミレイ『オフィーリア』の特徴
ミレイ『オフィーリア』, Public domain, via Wikimedia Commons
ミレイ『オフィーリア』の特徴は、落ち着いた構図の中に描かれる狂気です。オフィーリアの死を描く芸術家は、ミレイと同じように悲しみと狂気のなかで美しく散りゆく1人の少女に幻想的な魅力を感じていたようです。
作品を一見すると、草むらにのんびりと寝転がっているような平和な印象を受けるかもしれません。しかしよく観察すれば、体のほとんどは川に沈み、川底は暗く深いことがわかります。
危機的状況にありながら、オフィーリアは静かな表情をしています。目は落ち着いて遠くを見つめ、口は少し開いています。歌を口ずさんでいるのでしょう。手は助かるために周囲の植物をつかむわけでもなく、左右に力なさげに開かれているのみです。
右手には、作りかけていた花輪らしきものが見えますが、花輪になるはずだった色とりどりの花は、川の流れに乗ってはらはらと散らばっていきます。背景を知らなければ「美しい」とさえ感じられるような異様な平穏は、作品シーンの狂気をより際立たせています。
配信: イロハニアート