INDEPENDENT BOOK STORE/汽水空港
くすっとさせながら
語りかけてくる本たち
モリテツヤさんとアキナさん夫婦が営む新刊と古本の書店。〝子どもとともに生きる〟など特集棚も楽しい。「ジグシアター」の映画本コーナーは常設。店内にはカフェがあり、庭に建つ3坪の小屋では、ギャラリーやワークショップなどのイベントも行っている
東郷湖の湖畔に、「汽水空港」という旅の匂いがする書店があった。青と茶色がまだらになったトタン屋根に、色も材質もバラバラの廃材を打ちつけたようなドアはおもちゃのようだ。と思ったら、おもちゃ屋の倉庫を改装したのだそうだ。
店主のモリテツヤさんは、本棚に並ぶ本たちを、ちょっとくすっとさせながら私たちに紹介してくれる。それは「スピらずにスピる」と掲げた、偏り過ぎないスピリチュアルの本コーナーだったり。ZINEについても「自費での少部数出版」でなく、彼が語れば「誰からも頼まれていないのに個人が勝手につくる本」になる。本質だし、愛だな、と思う。
「気流舎」で出会った、原点の1冊。今でも2カ月に一度、この本の読書会を行っている
2015年10月に開店した「汽水空港」は、町で10年ぶりの書店だった。と言うが、そもそも千葉県出身のモリさんがどうして湯梨浜町へ?
「本屋は儲からないと聞いて、じゃあ自給自足で生活しようと、農業ができる場所を探したんです」
彼は「本屋」をめざして、まず農業の修業をしたのだった。ではなぜ本屋だったのかと言うと、学校に疑問を持っていた自分へ、「学ぶ喜び」を教えてくれたのが本だから。パンクに傾倒し、レコードを探しに通った東京の下北沢に「気流舎」というカウンター・カルチャー専門書店があった。そこで、パンクの歴史や文化的背景を知ったのが始まりだ。
社会実験のシェア畑“ターミナル2”。井戸掘り、キッチンなど今後の計画はいくつもある
「学びを提供するのが本屋だと。受験もない、年齢制限もない。その代わりわかりやすい答えもない。生きることは探っていくことだから、今、うちにあるのは正解のない本です」
書店には、哲学でも料理でも、世のあらゆることが凝縮されている。だとすれば、書店から社会を考えることだって大いにできるはずだ。
東郷湖は目の前。燃えるような夕陽は日常、夏には湖上大花火大会も眺められる
これまでモリさんは、さまざまな社会実験を試みている。誰でも農作業に参加したり、収穫物を食べられる公園のような畑「食える公園」。農薬と化学肥料を使わないこと以外、ルールなしのシェア畑。「土地と人間のつき合い方を、みんなで考えるための実験です」
現在、シェア畑では、年齢や職業の違う人たちが、好きな野菜やハーブを力量の範囲で育てていた。几帳面に整えた畑も、雑草がボーボーの畑も、お互いに認め合い共存している。
JR松崎駅から歩いて6分。傷んだ建物をモリさんがDIY で改装した店舗は、愛らしい表情
「『汽水空港』は最初、アスファルトのヒビに芽吹いてしまったけど、がんばって存在し続けるうちに腐葉土化して、虫たちが集まり、生態系ができてきた。自然農の畑のように」
汽水とは、淡水と海水が混じり合う水域のこと。東郷湖は汽水湖だ。澄みきった水ではないからこそ、多様な生き物をはぐくむ栄養がある。
汽水空港(きすいくうこう)
TEL.なし
住所/鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434-18
営業時間/12:00~19:00
定休日/水・木
配信: OZmall