次期最高権力者の正室の座をめぐる女同士の争い、その背景にある貴族社会の権力闘争――。どこかNHK大河ドラマ『光る君へ』を彷彿(ほうふつ)とさせる作品が、まさにNHK総合で放送されていたのをご存知だろうか。
今年4月6日から土曜の夜に毎週放送され、6月30日に第1部が終了したアニメ『烏(からす)は主(あるじ)を選ばない』。
シリーズ累計発行部数200万部、第9回吉川英治文庫賞を受賞した和風ファンタジー小説「八咫烏」シリーズ(文藝春秋社)をアニメ化したもので、平安王朝をモチーフとした世界観もさることながら、権力をめぐる貴族たちの暗躍や政略結婚といった内容から、ネット上では「大河ドラマみたいでおもしろい」「4月から『光る君へ』と一緒に楽しんでいる」といった声もたびたび上がった。そのため、一部では「大河アニメ」との呼び声も……。
7月20日から第2部がスタートするこの「大河アニメ」の魅力について紐解いてみよう。
『光る君へ』との共通点は?
『烏は主を選ばない』は、烏(からす)から人に転身できる「八咫烏(やたがらす)」の一族が支配する「山内(やまうち)」という異世界を舞台にした和風ファンタジー。
山内は、族長一家の宗家から生まれる「金烏(きんう)」を頂点に、東西南北の4つの領地を大貴族「四家」がそれぞれ治めている。金烏=最高権力者の正室はこの四家から選ばれるのが通例で、どこの家の姫が后となるかによって四家のパワーバランスも変わる。
アニメ第1部は、「八咫烏」シリーズの第1巻と第2巻を組み合わせて映像化しており、次期最高権力者となる皇太子・若宮(わかみや)の后選びという名の政争(第1巻『烏に単は似合わない』)と、若宮の命を狙う反対勢力との闘い(第2巻『烏は主を選ばない』)という、同時間軸で進行する2つの物語が描かれていく。
四家の姫たちは、皇太子の后候補として「桜花宮(おうかぐう)」という宮殿に住まい、家を背負った熾烈(しれつ)な戦いに火花を散らす。
序盤では宮中の礼儀作法や教養にちなんだイジメ、実家の財力を背景にしたマウンティングも起こり、このあたりはさながら『大奥』のような世界だが、「あせびの君」「真赭の薄(ますほのすすき)」といった姫たちの呼び名はさながら『源氏物語』のようで、桜花宮には春夏秋冬の季節を冠した御殿があり、それぞれに4姫が住まうといった設定なども『源氏物語』のオマージュではないかと指摘されている。
吉田羊演じる詮子の暗躍に通ずるところも
となれば、『源氏物語』のエピソードや設定を織り交ぜながら紫式部(と藤原道長)の生涯を描く『光る君へ』とリンクしているように感じられるのも自然なことだろう。宮中の権謀術数ストーリー、とりわけ吉田羊演じる藤原詮子が見せた動きは、『烏は主を選ばない』と重なって見えるところがある。
詮子は弟・道長(柄本佑)を政(まつりごと)の中枢に据えるために、左大臣の愛娘・源倫子(黒木華)と結婚を提案したり、息子である一条天皇(塩野瑛久)を説き伏せるなど暗躍するが、詮子の恐ろしさが際立ったのは、道長のライバルとなる藤原伊周(三浦翔平)らが失脚した「長徳の変」での立ち回り。
花山院(本郷奏多)に矢を射かけた疑いで謹慎の身となった伊周ら。そこに詮子が体調を崩し、彼女の寝所のまわりに呪符が見つかったことをきっかけに、伊周らが詮子を呪詛したと疑われ、彼らは流罪というさらに厳しい処罰を受けることに。
しかし、この事件にはウラがあることが匂わされていて、解釈はいくつかあるが、多くは「詮子は仮病であり、詮子が道長の政敵を陥れた」と考えただろう。
この、ひとつの事件の裏にさまざまな思惑がうごめき、最終的に意外な真相が浮かび上がるという展開は、『烏は主を選ばない』のハイライトにも起こる。
同作後半では、東家の姫・あせびと親しくなる女房の早桃(さもも)の死をきっかけに桜花宮がきな臭くなっていく。そして桜花宮で起こる不審な事件がすべて、あるひとりの人物に結び付くことが判明する第12話のラストから第13話にかけては、思わぬ人物が“真犯人”であるという意外性とその真相の恐ろしさで、「衝撃的な真相に鳥肌立ちまくり」「最後まで騙(だま)された」と視聴者に衝撃を与えた。
若宮がさながら探偵役となって何が起こっていたかを解き明かすあたりは本格ミステリーのようで、この后選びを描いた原作小説第一弾が第19回松本清張賞に輝いているのも納得だ。
配信: 女子SPA!