ヒロインを演じる伊藤沙莉(C)GettyImages
歴史エッセイスト・堀江宏樹氏が今期のNHK朝のテレビ小説『虎に翼』を史実的に解説します。
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『虎に翼』わきまえない女性として振る舞うこと
『虎に翼』、今週の放送から「新潟編」が始まり、寅子も東京の家庭裁判所から、新潟地家裁三条支部に支部長として赴任することになりました。しかし最近の『虎に翼』、なんだか見ていてヒヤヒヤするシーンが増えてきたような……。
ちょうど先週の内容くらいからでしょうか、寅子と家族や周囲の関係が明らかにギクシャクしはじめ、「働きマン」あるあるだなぁと思っていました。
『働きマン』(講談社)がはやったのも20年くらい前なので、軽く説明しておくと、「やる気スイッチ」が入れば、寝食を忘れ、一心不乱に仕事に取り組んでしまう編集者・松方弘子(29歳)を主人公とした安野モヨコさんによる漫画作品のことです。
菅野美穂さん主演でドラマ化もされましたね。やる気になった松方弘子の変貌ぶりが、ウルトラマンとかスーパーマンみたいなので「働きマン」なのですが、猪爪寅子の「働きマン」ぶりも(20年前の名作を思い出すほどに)凄まじく、心配になるくらいでした。
寅子はいつでも一生懸命ですし、彼女の喜怒哀楽にはまっとうな理由があるのです。しかし、「恩師」の穂積先生(小林薫さん)の退官記念会で怒りをほとばしらせたり、ラジオ出演中の最高裁の山本長官(矢島健一さん)による、寅子を持ち上げたつもりのコメントにまで「ハテ?」をぶつけるあたりには、さすがにハラハラさせられました。
自分が信じる正しさを貫き、「わきまえない」女性として振る舞うことは、ここまで周囲との不協和音を生んでしまうのか……と今更ながらに感じいりましたし、これは寅子が女性キャラではなく、男性キャラだったとしても、かなり大変な印象のシーンになっていただろうと思います。しかしすべてを「きれいごと」で終わらせようとしない、脚本家の吉田恵里香先生はじめ、制作陣の勇気ある姿勢は立派ですね。
配信: サイゾーウーマン