『虎に翼』、周囲とギクシャクする寅子が「菩薩」に変化? 史実からみる「超名作」への期待

猪爪家の「専業主婦」の花江と家庭を顧みない「夫」寅子

 興味深かったのは、寅子自身も新潟への転勤が決まった時、山本長官に楯突いたことへの報復人事かもしれないと感じていなくはない様子でしたし、本当は異動を決定したのは桂場(松山ケンイチさん)だと知ると、彼にむかって「私の高くなりすぎた鼻をへし折り、正しい道に戻してくれようとしたんですよね」という意味のセリフを言っていた部分です。これは寅子自身も、周囲との関係がギクシャクしてきたことに気づいていたからでしょうね。

 思えば、寅子は長年ずっと「働きマン」すぎて、弟・直明(三山凌輝さん)の進路相談にも結局は乗らない(乗れない)ままでしたし、娘の優未(竹澤咲子さん)のことも同居の花江(森田望智さん)や甥っ子たちに任せっきりで、ほとんど把握していない状態になってしまっていました。

 猪爪家の「専業主婦」である花江と、家の外で働く寅子の関係も、共同生活している女性同士なのですが、まるで家庭を顧みない夫がいる熟年夫婦のように、こじれた部分が表面化していてなんとも心配――というように、思えば心配なことだらけのドラマになってしまいました。

 心配ばかりしていても何も始まらないので、今回は寅子の新潟赴任について調べてみたところ、実は猪爪寅子のモデルである三淵嘉子さんの人生の記録がかなり端折られていたことがわかりました。

史実では、名古屋で再婚後に新潟へ

 三淵さんにも新潟時代はあるのですが、それは三淵乾太郎さんと再婚してしばらくした後の昭和47年(1972年)からのことなのです。

 史実の三淵さんが、東京から最初に転勤したのは昭和27年(1952年)12月の名古屋地方裁判所でした。当地で初の女性判事となったときには駅の電光掲示板でさえも「名古屋に女性判事誕生」のニュースが大々的に報じられ、お祝いムードだったようです。

 そして前回のコラムでも書きましたが、名古屋でのちに再婚することになる三淵乾太郎さんとはお付き合いが始まったそうですね。ドラマでは名古屋ではなく新潟で、マイペースな星航一(岡田将生さん)との関係が深まっていくのでしょうか……。

 しかし、ドラマで新潟編がスタートしたのは、9月末の最終回までの放送期間が残り2カ月を切っており、新潟時代に荒波に揉まれ、人間的にも成長した寅子が東京家庭裁判所に復帰して非行少年たちの更生に尽力するというストーリーの終わらせ方を見据えているからだろうと思われます。

 三淵嘉子さんの人生を端折ることで、史実の三淵さんが経験した「原爆裁判」など、朝ドラで触れるには重大なテーマも回避できるので、それも現実的な判断としてあったのかもしれません。

 ――まぁ、普通のドラマならそうなるのでしょうが、『虎に翼』の脚本家・吉田恵里香先生は天才的な方なので、「原爆裁判」関係を凝縮して見せてくれる可能性も充分にあると思います。楽しみにしていましょう。

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