版画技法「エングレービング」とは?歴史や日本版画との違いを解説!


アルブレヒト・デューラー, 『聖ジローム』, Public domain, via Wikimedia Com

「版画」と一言にいってもさまざまな技法が存在するため、作品を正しく理解するためには特徴や制作プロセスの理解が欠かせません。この記事では、西洋の伝統的な版画技法「エングレービング」の歴史や作品例、日本版画やエッチングとの違いをわかりやすく解説します!

版画技法「エングレービング」は凹版技法の1つ


キャプション:Istituto centrale per la grafica 作業風景(井上はな撮影)

版画技法「エングレービング」は、硬い鉄板などの表面に図柄を掘り、できた溝のインクを塗りこんで印刷する技法です。溝以外の表面部分に付着したインクはきれいにふきとり、印刷時には支持体(通常は紙)機械などで強い圧力をかけるため、溝に残ったインクのみが印刷される仕組みです。

エングレービングの版は一般的に銅板が用いられますが、銀板や金版が使用されて版そのものに美術的価値が付与されるケースもあります。版に紙を押し付けて写ったインクが仕上がりの絵地になるので、作品は版に対して反転しています。

鉄素材など硬い版に彫るため、木材に比べると彫り端が安定しやすく精巧で緻密な仕上がりになる点が特徴です。一方、硬い版を正確に彫るためには非常に高いスキルが必要であり、熟練した技がなければ美しいエングレービングを作ることができません。

エングレービングはデッサンや絵画作品に比べると、手軽に量産できるメリットがあります。一度版を制作してしまえば、紙とインクを用意するだけで同じ作品を印刷できるためです。銅版は木製の版に比べて耐久性が高く、多くの作品を残せます。

ただし、あまりにたくさん印刷するとインキを埋める溝部分(彫り)が損傷し、線のシャープさが失われます。エングレービングは同じ作品を量産でき耐久性があるとはいえ、1枚の銅板を使い続けるのには限界がある点に注意が必要です。

エングレービングの歴史は15世紀から


エングレービングの技法, Public domain, via Wikimedia Com

エングレービングの歴史は、15世紀ごろまでさかのぼります。「版画」の芸術技法は中国が発祥と言われており、当時まだ西洋になかった「紙」の生産方法とともに15世紀に東方から伝来しました。

西洋における版画の始まりは木版画(ウッドカット)でしたが、有機物には精密な絵画表現の限界がありました。木の表面はざらざらしており、印刷時にガタつきが出るためです。

細かい部分の彫刻では、削った際に木目に合わせて端が破損してしまうこともあります。印刷で強いプレッシャーを与えると版そのものが割れるリスクもあり、西洋では早い段階から銅や鉄の板に彫るエングレービングが流行しました。

エングレービングがもっとも興隆した時代は1470年頃から1530年頃にかけてです。16世紀以降もエングレービングが制作されなかったわけではありませんが、「エッチング」と呼ばれる版画の技法が多く用いられるようになっていきます。エングレービングとエッチングの違いについては、のちほど解説します。

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