シンガポールで日本人初の「鞭打ち刑」判決、「外国人にも厳しい処罰」アピールか

シンガポールで日本人初の「鞭打ち刑」判決、「外国人にも厳しい処罰」アピールか

●マイケル・フェイの鞭打ち刑

「実際に、器物損害で鞭打ち刑が科された青年の事例があります。1994年、18歳のシンガポール在住のアメリカ人、マイケル・フェイ氏が器物損壊の罪で鞭打ち刑を受け、国際的な論争を引き起こしました。フェイ氏は道路標識を盗み、18台の車に落書きをした罪で逮捕され、鞭打ち刑6回を含む処罰を受けました。

この厳しい刑罰はアメリカ国内でも大きな注目を集め、当時の米大統領ビル・クリントンが介入し、鞭打ち刑が過酷すぎるとして慈悲を求めました。その結果、鞭打ちの回数は6回から4回に減少されました。多くのアメリカ人は、この暴力的な鞭打ち刑を野蛮だと批判しましたが、シンガポールの厳格な法律を評価する声もありました。

この事件は、アメリカとシンガポールの外交関係を一時的に緊張させることになりました」

●「犯罪に厳しい国」国内外にアピールか

「鞭打ちは、性犯罪のほか、窃盗、麻薬取引などの罪に科されることがあります。適用される対象は50歳までの男性に限られ、回数は最多で24回と定められていて、長さ1.5メートル程度の籐(ラタン)で作られた棒で、臀部を叩くものです。事前通告はないので、受刑者は判決が出た後に怯えながら過ごすことになります。

性犯罪は再犯率が高いため、体に痛みを刻み込まないと再犯に及ぶ可能性が高いとの考えも理解できます。先進国において身体的な苦痛を伴う罰則は珍しくもあり、国外から反対意見を受けることもありますが、国内では反対の声が目立つとは感じません」

栗田弁護士は、報道からわかる情報を前提として、今回の判決について「性的暴行がある意味で非人道的な行為とみなされた」と指摘する。

「個人的な見解ですが、裁判官の判断として、シンガポールは犯罪に対しては厳しい国だということを内外に示すために判決を出した可能性もあります。

つまり、シンガポール国民に対してはもちろん、外国人に対しても、厳罰をもって臨み、再犯を防止するという政策的判断も入っているのではないかと思いました。すでにこのようにして鞭打ち刑が話題になっていること自体、犯罪の抑制に働いているのではないでしょうか」

栗田弁護士のクライアントには、ビジネスのために日本からシンガポールを訪れる人も少なくない。

「我々のクライアントにも、シンガポールの刑法は非常に厳しく、軽微な犯罪行為でもビザが更新されず、シンガポールに滞在できなくなる可能性があることはお伝えしております。場合によっては、いきなり逮捕・拘留され、ビザをはく奪されて、国外退去にされるというケースもあるため、注意が必要です」

【取材協力弁護士】
栗田 哲郎(くりた・てつお)弁護士
シンガポール法(Foreign Practitioner Examination)・日本法・アメリカNY州法弁護士。2003年東京大学法学部卒業、04年弁護士登録。11年米・ニューヨーク州法弁護士登録。日本の大手法律事務所勤務やシンガポールの大手法律事務所などを経て、シンガポールを中心にアジア法務全般(M&A、国際商事仲裁等の紛争解決等)のアドバイスを提供。One Asia法律事務所代表弁護士。
事務所名:One Asia法律事務所
事務所URL:https://oneasia.legal/ 

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