INDEPENDENT BOOK STORE/本町文化堂
本から得た好奇心を
イベントでさらに広げる
嶋田詔太さんと三木早也佳さんは、ともに和歌山市が地元。嶋田さんは神戸でコピーライターの仕事に就いた後、Uターン。ここで50年店を続けることは、決めている
「シネマ203」から、北ぶらくり丁のアーケードを抜けて徒歩3分。この至近距離に、高水さんが「私より映画に詳しい」と舌を巻く嶋田詔太さんと、三木早也佳さんによる書店「本町文化堂」がある。近所で7年間「本屋プラグ」として営んできたが、今年3月に本町へ移転。洋裁学校だった建物の1階が本屋に、2階はイベントスペースになった。嶋田さんはここで、定期的に無声映画を上映しているのだ。
映画、トーク、音楽など臨機応変にフォーメーションを変えられる2 階のイベントスペース
「楽士ってご存知ですか? トーキー以前の音のない映画には、専門の音楽家がピアノなどの楽器を生演奏して、映画に音楽をつけていました。それを再現するんです」
このイベントに合わせ、「シネマ203」で戦前の無声映画を特集上映したり、逆に映画のトークイベントを「本町文化堂」の2階で行ったり。
録音・DJ ブースも完備。嶋田さんは週1回、ポッドキャスト『本町文化堂からこんにちは』を配信中
ほかにも僧侶や学者、作家に落語家、銭湯の跡継ぎなどユニークな専門家と手を組みながら、「点でなく、面で」和歌山のカルチャーをおもしろくしていく、まさに「文化堂」。ピアノもスクリーンもある。さらには音響設備、録音・DJブース、バーカウンターまで備えているから、あらゆるイベントが可能だ。「高校生のとき、雑誌で知るアート系映画やバンド、落語も、和歌山では身近になかったので。そういった原体験が、地元でできたらいいなと」
1階は書店。新刊と古本のほか、レコードや地元ミュージシャンのCD、本の関連雑貨も販売
2階の話が長くなったが、そもそもの入口は、本だ。彼らにとってイベントは、あらゆる本を読んで得られた好奇心や興味を、さらに深掘りし、拡張し、共有する手段。実は嶋田さん、貪欲なまでの知りたがりなのである。それも「ラーメン文化の中の家父長制」とか「電気風呂鑑定士」とか「モンゴルのヒップホップ」とか。世の中に日々放出される書物の大河から、多くの人が見過ごしてしまうようなトピックスが、彼のアンテナには引っかかる。そうして一度気になってしまったら、「なんで? どうして?」 と追いかけずにはいられない性分らしい。
「気分でつくる」フェアのコーナー。取材時は「世界、都市、旅」がテーマの書籍や雑誌、絵本
アジアに強い三木さんも含め、そんな知のハンターたちが探し出した本が、1階には集積されている。「今週発売の『少年ジャンプ』から、100年前の郷土史まで」本棚自体を、読み解いていくような感覚になる本棚だ。例えば食のあたりには、日々のレシピ本の棚があり、昭和の飲食店、民族の料理へと移り、やがて難民や移民の話につながっていくような。ゆるやかに、あるいは強烈にかかわり合う構造は、世界と同じだ。「本町文化堂」の表現はポップだけれど、ときに毒をもって、私たちの眠れる好奇心を揺り起こす。
本町文化堂(ほんまちぶんかどう)
TEL.073-488-4775
住所/和歌山県和歌山市本町3-6
営業時間/12:00~ 20:00
定休日/木
配信: OZmall