「売れるはずない」とまで断言されたダニ捕りシートを5年連続売り上げNO.1に導いた手法とは?

「売れるはずない」とまで断言されたダニ捕りシートを5年連続売り上げNO.1に導いた手法とは?

どの家庭でも約数百万〜数億匹のダニが生息しているという。高温多湿の環境を好むため、これからの季節は要注意だ。しかし肉眼では捉えられないほど小さいうえに、天日干しや洗濯だけでは十分に駆除できないため、どのように対策すればいいか悩む人も多いのでは。

「さよならダニー」は寝具などダニが繁殖しやすい場所に置いておくだけでダニを捕まえられる立体構造のダニ捕りシートだ。株式会社イースマイルが企画・開発し、現在は株式会社スマイルコミュニケーションズがその販売を担う。殺虫剤市場は大手メーカーが高いシェアを占めるため、発売した当時は「売れるはずない」といわれたこともあったが、ダニ用殺虫剤部門で売り上げNO.1を5年連続(2019年~2023年日経POS実績)で獲得。株式会社イースマイル代表取締役の仲村淳さんに、「さよならダニー」をヒットに導いたビジネスモデルについて聞いた。

■目標は6割以上をヒット商品に
――はじめにイースマイルとスマイルコミュニケーションズの事業内容について教えてください。
【仲村淳】イースマイルでは商品の企画・仕入れを行っており、スマイルコミュニケーションズは販売部門として2023年7月に設立しました。現在は自社ECサイトを使って、季節ごとにどの商品がどれだけ購入されているのかを分析する「マーケティングEC」というものを成長させているところです。ECサイトでは、今後約5000商品を扱っていき、お客様が今欲しがっているものがわかったら、次にその商品でクラウドファンディングを行って、認知度が高まったら商品を製造します。そして他社のECサイトでも販売や広告を展開し、さらに認知度を上げる。「これならいける」と思った段階で、店頭へ持っていくというビジネスモデルです。

【仲村淳】現在の小売りにおいて、一番の問題は流通における返品です。何も準備せずに商品をただ店頭に並べて、すぐに売れるということは、ほぼありません。認知がある程度高まっていないと、半年後には返品されてしまいます。目標は6割以上を月販1万個を超えるヒット商品にして、年間の返品率は5%以下にすることです。

――「さよならダニー」もこの方法で開発・販売されたのでしょうか。
【仲村淳】「さよならダニー」はこのビジネスモデルを構築した最初の商品です。弊社はコロナ禍に大量の在庫を抱えてしまった経験がありました。そのようなことは二度と起きないようにしようということで、「さよならダニー」を世の中に出すときのプロセスが、まさにこのビジネスモデルの形になっていきました。

【仲村淳】これまでもいろいろな方法で製品を開発・販売してきたなかで、最初にヒットしたのが「大山式」という美容健康器具です。小売り店で販売するのと並行して、主婦の友社とコラボしてムック本という形で出版流通に乗せて販売をしました。大山式は、現在シリーズ累計700万個を超えるヒット商品です。自社だけでヒットさせることは非常に難しく、うまくコラボレーションしなければ、世の中に製品を残すことはできないのだと思いました。

■立体構造で粘着面積アップ
――「さよならダニー」の発売の経緯や特徴を教えてください。
【仲村淳】当時、ダニ捕りシートが売れているということをテレビ通販で知り、ちょうどそのタイミングで、ダニ捕りシートを作っている会社から、話を聞いてほしいという連絡がありました。現在ダニ捕りシートは100商品以上ありますが、2018年は、店頭に出ているものは3商品だけ。他社で販売されていたダニ捕りシートは、粘着シールをタオルで挟んだ平面的なものでした。しかし平面では、シートの外側の部分でしかダニを捕れません。

【仲村淳】もっと捕れる方法はないのかということで、研究者の方が開発したのが、誘引剤と粘着剤をスポンジで挟んだ立体構造のダニ捕りシートでした。ダニはいろいろな穴から入ってくることができるので、中心部分でもダニを捕まえることができます。

【仲村淳】実は私の子どもはアトピー性皮膚炎で、3歳のときに髪の毛が全部抜けてしまいました。髪が生えてきてもまた抜けて…というのを10歳ごろまで繰り返し、病院へ行っても原因不明だといわれて治りませんでした。でも原因は結局ダニだったんだとわかりました。アレルギーやアトピー、ぜんそくなどの原因のうち、子どもが最初に触れるのがダニです。そのことを知って、ダニ捕りシートを作りたいと思い、この商品を持ってきた研究者の方に「私が日本一売れるようにします」と約束しました。

【仲村淳】2018年に発売したシリーズ第一弾の「さよならダニー」の計算上の捕獲数は、平面状のシートのおよそ9倍(寝具環境下)の26万9000匹。さらに誘引剤は化学物質ではなく食品添加物なので非常に安全です。2024年1月に発売した「さよならダニーDX」は、枕や布団に入れても違和感のないように、素材をスポンジから天然のコットンに。捕獲数は1シート当たり57万6千匹になって、今後はこちらの商品に力を入れていきます。

――商品化するにあたり苦労したポイントは?
【仲村淳】「さよならダニー」を商品化していたとき、ちょうど社内では化粧品でヒット商品が生まれていました。みんな化粧品の方に集中していて、社内は「化粧品がこれだけ売れてるんだからいいじゃん」という雰囲気。新商品を世に出すにはパワーが必要です。この雰囲気では乗り越えられないなと思い、社外の人に頼りながら、私ひとりでダニ捕りシートを作ることにしました。でもその結果、自分が思い描いているものを形にできました。

【仲村淳】「さよならダニー」は、「鼻セレブ」(ネピア)のブランド開発者である今敏之さんという方にネーミングなどをお願いしました。今さんがプレゼンをしてくれて、「ひきこもりのダニー」「囚われのダニー」「ダニとりMAX」といった候補があり、最後に「さよならダニー」と出てきて「これしかない」と確信しましたね。弊社では100万個以上売れた商品が4つあります。「大山式ボディメイクパッド」「フジコ 眉ティント」「フジコ FPPパウダー」そして「さよならダニー」。どれも商品名に名前が入っているんです。

【仲村淳】さよならダニーのキャラクターとデザインも、今さんの仲間が作ってくれました。黒に蛍光色を使ったパッケージも珍しく、店頭に並ぶとよく映えます。またキャラクターの顔があって、目がこっちを向いています。このデザインがあがってきたときに「店頭向けの商品だな」と思いました。弊社は大々的に広告は打てないけれど、大手メーカーは広告にもお金をかけています。それを見てドラッグストアに行った人が、店頭で目にとめて「じゃあこれも」とついでに買っていってくれるんですよ。

【仲村淳】「さよならダニー」のランディングページでは、「あなたは毎日約100万匹のダニの上で寝ています」というコピーで、ダニの恐ろしさを説明しました。1匹が100匹になり、100匹が1万匹になり、1万匹が100万匹になる…。ダニは1日6回もフンをするので、だいたいの家ではダニのフンや死骸が舞っています。しかもダニは生命力が強いので、天日干しや洗濯では死なないし、掃除機なら1メートル四方で10分以上かけないとダニは捕りきれません。ダニをたくさん捕獲するなら3Dのシートですよ、と。

【仲村淳】でもECでうまくいって問屋さんへ「絶対にヒット商品になります」と持っていっても、「ダニ捕りは強豪がひしめきあっているので売れるはずない」といわれました。さよならダニーは当時1485円(現在は希望小売り価格1628円)、他社のダニ捕りシートは1000円未満。何万匹も捕れるというエビデンスがあっても、「お客さんには関係ない、防虫・殺虫剤は安ければ安いほどいい」ともいわれました。

【仲村淳】そこで「ドン・キホーテ3店舗だけやらせてください。売り場作りもうちでやります」とお願いしました。販売してみると2週間も経たないうちに完売。その情報を聞きつけたドラッグストアなどからも声がかかりました。現在は約2万店舗で取り扱いがあり、売り上げはECが2割、実店舗が8割です。

■1週間以内に効果を実感できる商品を
――日経POSセレクション「ダニ用殺虫剤」部門では、5年連続で売り上げNo.1を獲得されました。
【仲村淳】ヒットした商品は、他社に必ずマネをされるんですね。でも大きい会社こそマネするまでに時間がかかると思ったんです。そこで弊社が売り上げのシェアを一気に取る。そしてコロナ禍になって自宅にいる時間が増えると、ダニ被害を訴える人も増えました。そのころにも、大手メーカーからはまだ出ていなかったので、2019年から5年連続で1位を取ることができました。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。
【仲村淳】日本の病院は、診療科ごとの縦割り構造です。日本のお医者さんはとても優秀だけど、例えばアレルギーが発症したら、発症した箇所によって皮膚科にも、耳鼻科にも、呼吸器科にも行かないといけません。だからお医者さんの手の届かないところを、商品で助けることができればと思っています。

【仲村淳】また、女性が社会進出して共働き世帯が増えるなかで、家事をもう少し楽にしたいという思いがあります。洗濯物と一緒に洗濯機に入ると、衣類のニオイ悩みを解消する「さよなら洗濯の菌さん」や、排水口に錠剤を入れるだけ、ヌメリやニオイを予防する「さよならヌメリー」などを販売しており、家事の手間のかかる部分を助けられるような事業を展開していきたいと考えています。

【仲村淳】「さよならダニー」を発売したころに既存商品の効果を検証してみると、十分な効き目がないものが多いことを実感しました。私が社員に口すっぱく言っているのは「1週間以内に必ず効果を実感できる商品を作らないとダメだ」ということです。いい商品はリピートにつながります。お客様を助けて、お客様に助けられながら、お客様と仲よくなっていくことができればと思います。

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