幼い娘3人を殺害した29歳の母親は“異常者”か?法廷での発言にみる生きづらさとは|ルポライター・杉山春さんに聞く

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社会的弱者ほど“求められるかたち”に収まろうとする


 遠矢被告もまた子育てをする中で心神喪失の状態にあり、“弱さ”を抱える親のひとりでした。その背景には、社会に根付く「理想とする母親像」と、そうなれない自分自身とのギャップから生まれる葛藤があったのではないかという見方もできます。

「社会的な弱者ほど、アイデンティティーを周囲から否定され続けながら生きているため、本来の自分を『殺す』あるいは『隠す』ことで生き延びようとするケースは非常に多いです。周囲や社会から求められるかたちに無理にでも収まることで自分を保とうとするわけですが、その抑圧が生む精神的苦痛はとてつもなく大きい。そのひずみによって生まれるしわ寄せが向かうのは、さらに弱い立場にある子どもなのです」

 家族という最小のコミュニティで起こってしまう児童虐待事件を一件でも減らすためには、社会全体で共有される価値観を変える必要があると、杉山さんは呼びかけます。

「多くの報道機関が、今日お話ししたような虐待事件のメカニズムについては触れずに、加害者を“異常な個人”として取り上げるのは、ある意味で『子育てできない親は、こうなるぞ』という見せしめをしているようなものです。現代社会が抱える人権の問題を、今のようにあいまいにするのではなくオープンに話し合えるようになったら、子殺しはもっと減るのではないかと、私は考えています」

<取材・文/菅原史稀>

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