事件から5年が経ったその日に観た人たちからの投稿も
劇中ではまるで「IF」のように「殺人犯による凶行を未然に防ぐ」様も描かれるが、現実では結局何も変わらない。京本は生き返ったりはせず、藤野は漫画に向かい続けるしかない。そこからも、本作は原作者の藤本タツキの「漫画を描いていても何の役にもたたない」という無力感を劇中に投影しつつも、それでも創作に向かい続けるという、やはり「意志」を描く作品だとわかるだろう。
そして、先日の2024年7月18日、京都アニメーション放火殺人事件が5年が経ったその日に、アニメ映画版を鑑賞した人からの(複雑な心境も垣間見えるものの)「今日という日に観てよかった」「今日だからいろんな想いがこみ上げてきた」「あの悲劇を忘れない、二度と起こしてはいけない、祈りを込めて鑑賞」といったSNSでの投稿があった。そこからも「この作品が届くべき人に届けられて良かった」とも強く思うことができた。
また、今回のアニメ映画ではエンドロールで「朝から夜まで変わる背景」を示すことで、本作が「アニメーションという創作物である」事実をメタフィクション的に示すという構図もある。『ルックバック』は2度の修正もさることながら、「漫画をアニメ映画にする」こと、さらには創作そのものの意義さえも、究極的に感じられる作品でもあったのだ。改めて、本作を作り上げたクリエイターたちの、その意志と覚悟を讃えたい。
<文/ヒナタカ>
【ヒナタカ】
WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「CINEMAS+」、紙媒体『月刊総務』などで記事を執筆中の映画ライター。Xアカウント:@HinatakaJeF
配信: 女子SPA!
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