「#好きにやってよし!」5年ぶりのフルリニューアル。日本上陸66周年を迎えた「ファンタ」のぶれないこだわりとは

「#好きにやってよし!」5年ぶりのフルリニューアル。日本上陸66周年を迎えた「ファンタ」のぶれないこだわりとは

うず高く積んだポテトチップスを頬張りながら、動画やゲームを楽しみながら…日常にある「欲望」を満たす瞬間。ともにあるのはフルーツ炭酸飲料でおなじみのファンタ!

「#好きにやってよし!」の力強い言葉とポップでキャッチーなビジュアルが目を引くファンタのブランドメッセージ。2024年4月に5年ぶりに味わいとデザインのフルリニューアルを行い、日本上陸66周年を迎えた、フルーツ炭酸飲料のトップブランドだ。

しかし、フルーツ炭酸飲料市場は健康志向の高まりなどから、市場としては縮小傾向にあるという。難しい時代をトップブランドとしてファンタはどこを目指し、何にこだわるのか。「#好きにやってよし!」に込められた想いとは?日本コカ・コーラ株式会社 マーケティング本部スパークリングフレーバーズカテゴリーシニアマネジャーの中西瞳さんに話を聞いた。

■オレンジとグレープ、2つの大黒柱。フレーバーの魅力をアップ!
ファンタの発祥はドイツ。1940年、第二次世界大戦のためコーラの原液が輸入できなくなったことから、ドイツのコカ・コーラ社が自社で調達可能な材料から開発したのが誕生のきっかけ。日本では1958年、すでに15種類以上のフレーバーが展開されていたファンタのうち、オレンジ、グレープ、クラブソーダの3種類が上陸することになった。発売当時は瓶入りのみで販売されていたが、その後缶入りが主流に。1996年からはペットボトルタイプの発売がスタートし、さまざまなシーンに対応するドリンクとして愛されている。

日本上陸時からあるオレンジとグレープは、ファンタの大黒柱的な存在。その2つを今回フルリニューアルしているが、どんなきっかけがあったのだろうか?

「グレープとオレンジは昔からあるフレーバーですが、ただ同じものをずっと提供するのではなく、時代に合うもの、消費者の方が飲みたいと思ってくださるものに進化させたうえで、しっかりと継続して提供していきたいと思っています。ファンタにどんなものが求められているのか、さまざまな方法で調査を重ねてきました。そうした中でグレープとオレンジでちょっとずつニーズや飲まれるシーンが違うというのがわかったんです。私たちはグレープとオレンジはそれぞれの良さがあるというのはなんとなくわかっていたけども、2つで1つと考えているところがありました。それをあらためて消費者の皆さんに聞いてみたら、いい意味でそれぞれの良さが分かれていて、ならばそれをもっと強調していきたい、ということで今回のリニューアルにつながっていきました」

グレープとオレンジの違いは「定量的ではない」としつつも中西さん曰く、「グレープは疲れた自分を癒やしたいとき、オレンジは気分をすっきり爽やかにしたいときに好まれるようです。甘さやそのフルーツが持つイメージ、液色も関係しているのだと思います。オレンジは柑橘で爽やかな印象がありますし、グレープは甘くて自分を満たしたい気持ちにマッチしています」と教えてくれた。

こうした消費者の細かなニーズに応えるべく、グレープは口に入れた瞬間からグレープの香りと味が広がるように、オレンジはより爽やかな後味が楽しめるように変えられた。

「マーケティングだけではなく、開発チームも含めたワンチームになって、昔のファンタや味わいのDNAを担保しながら、リニューアルを進めました。これまでファンタを継承し続けている我々の知見、経験をフル活用することで、“ファンタらしさ”のある味わいを表現しています」

“消費者のニーズに応える”という姿勢は、味わいだけではなく、サイズ展開にもみて取れる。160ミリリットルの缶から1500ミリリットルのペットボトルまで、グレープは11種類、オレンジは7種類ものサイズ違いを販売している。

「サイズは、チャネルや飲用シーンに合わせて、細かに設定しています。700ミリリットルのペットボトルサイズはスーパーマーケットやドラッグストア、ディスカウントストアに流通させています。コンビニでしたら、ひとりで飲むことを想定したサイズ。自動販売機向けのサイズもあります。5月から出した梅味は、自動販売機での限定商品で、暑い日にごくごく飲むのにぴったりな味わいです。そのため、490ミリリットルというサイズにしています」

ファンタの公式ホームページでは、定番のグレープとオレンジ、セブン&アイ限定のメロンソーダ、7月1日から発売になったヨーグルラッシュ マーブルオレンジの4フレーバーが掲載されている(2024年7月現在)。しかし、実際のところはもっと数多くのフレーバーが発売されているそうだ。

「1年を通じて多くのフレーバーを出していることもあり、公式ホームページや企業リリースで発表しているのは、ナショナルなもの、全チャネルで販売しているものだけに限っているんです。実は、エリア限定のフレーバーも存在しています。たとえば沖縄はシークワーサーがありますね」

では、これまでに出したフレーバーで特に人気だったものはなんだろうか?

「そのときのトレンドや消費者からのニーズが変わってくるので、この味が一番売れましたというのがバシッと言えないのですが、5月に出した『ファンタ ミステリーレトロ』は大変好評いただきました。これは『#What The Fanta』シリーズで、何味かを当ててもらう遊び心満載の商品です。トレンドである“レトロ”をテーマに新しく開発したフレーバーで、2種類の果物と1種類の駄菓子をミックスした“ちょっと懐かしいあの頃”の味わいを表現しています。パッケージも1980〜1990年代に日本で実際に使われていたファンタロゴをあしらったデザインで、若年層にとってはレトロ可愛く、40代以上の方にとっては懐かしさを覚えるものに仕上げました」

■実は健康を意識した商品も。ただ、一番大事にしたいことは楽しむこと
フレーバー炭酸市場におけるフルーツ炭酸飲料は約4割を占める重要セグメントだという。しかし一方で、年平均成長率・購入頻度は、対2020年比でともにマイナスで、これには健康志向の高まりが大きく影響しているのだという。他社では機能性表示食品の炭酸飲料や0カロリーを売りにした商品を販売しているところもあるが、ファンタではそういった健康志向に合わせた商品を開発しないのだろうか?

「実は、5月に発売した『ファンタ ミステリーレトロ』は0キロカロリーなんです」と意外な答えが。パッケージをよく見ると、確かに「0kcal」と小さく表記されている。カロリーゼロであることをアピールせずに販売したのはなぜだろうか?

「『#What The Fanta』シリーズの魅力は飲んだときに『なんの味だろう?』とみんなで話し合えるワクワク感にあり、これはこの商品でしか体験できないことです。このワクワク感はファンタらしさにもつながっているわけですが、そうしたファンタらしさを前面にしつつも、カロリーが気になる方にも楽しんでもらえるようにということで、この設計になりました。炭酸飲料を飲むときって気分をあげたい、爽快感がほしいというときだと思うんですね。消費者の方のそうした気持ちにしっかり応えるということを優先したいと考えています。目一杯楽しんでもらって、おまけにカロリーゼロです、という形ですね」

確かに「健康的だけどおいしい」と「おいしくて健康的」では消費者の受け止め方は異なりそうだ。中西さんによれば、今後も0キロカロリーのフレーバーを出す可能性はあるが「あくまでもファンタとしての楽しさを一番にしたい」ということ。

「フルリニューアル記念で、期間限定でグレープとオレンジのパッケージは擦ると香りがするラベルを採用しました。リニューアルにあたってファンタらしさはどこにあるんだろうとブレストを行ったんですが、味わいだけではなく、飲む前から楽しんでもらえたらいいなという着眼点から、このラベルのアイデアに行きつきました。擦ってフルーツの香りがふわっとしたところに、栓を開けたらさらにフルーツの香りがしたらいいんじゃないかと。7月新発売のヨーグルラッシュも細かなオレンジフレーバーのゼリーを入れて、ヨーグルトの白とオレンジが混ぜる楽しさを演出しています。加えて、モンスターストライク、通称モンストとのコラボも行っており、モンストの人気キャラクターの描き下ろしイラストがデザインされたパッケージになっています」

ファンタらしい楽しさというのは、2024年のブランドメッセージである「#好きにやってよし!」にも込められている。

「タイパという言葉が示すように、ティーンも含めて日頃からしなければいけないことに追われています。『こうしなきゃ』を気にせずに、自分らしく自分のしたいことを楽しんでほしい。ファンタがそんな人たちの背中を“ちょん”っと後押しできたらという想いを込めています。キャンペーンのビジュアルも、『おいしいから飲んで!』とファンタを全面に押し付けるものではなく、日常の楽しさにファンタが寄り添っている、そんな存在でありたいという想いを表現しています」

フルリニューアルで難しかったことを中西さんに聞くと「安全な香り付きラベルの開発や味決めなど技術的な難しさはありましたけど、結論としては楽しくやりました」とのこと。ファンタを作り出す人々の楽しむ心が、ファンタらしさを支え、ナンバーワンブランドたらしめているのだろう。

取材・文=西連寺くらら
撮影=三佐和隆士

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