『トイ・ストーリー』楽曲の作者は、もっと強烈な皮肉も
もっと強烈な皮肉を込めたのが、映画『トイ・ストーリー』シリーズの音楽で知られるソングライター、ランディ・ニューマンです。16世紀に隆盛を極めたヨーロッパをおちょくった「The Great Nations of Europe」で、コロンブスをこう描いています。
<インドに向けて航海したコロンブスは 代わりにサンサルバドルを発見した
握手したと思った矢先 現地のインディアンはみんな死んだ
ヨーロッパにはチフス 水虫 ジフテリア インフルエンザ なんでもござれ
失礼! ヨーロッパ様のお通りだ>
この歌詞を、いかにもヨーロッパ風の荘厳なオーケストレーションとともに歌うユーモアがシビアな批評になっている。まさにアメリカの繁栄と表裏一体のむごたらしい裏話が表現されているのです。
「コロンブス」は日本でしか通用しない度を越した無邪気さ
では、これらを踏まえて、Mrs. GREEN APPLEの言う「コロンブス」とはどんなものだと考えたらいいのでしょうか?
こうした経緯やコロンブスに否定的な他者の作品を知っていて、それでも明るく前向きなメッセージのシンボルとして使いたいという確固たる考えが、果たしてあったのでしょうか?
<地底の果てで聞こえる コロンブスの高揚>
<ほら また舟は進むんだ>
6月13日、MVの公開を停止した際、バンドのフロントマン、大森元貴はこうコメントしていました。
<決して差別的な内容にしたい、悲惨な歴史を肯定するものにしたいという意図はありませんでしたが、上記のキーワード(筆者註・「年代別の歴史上の人物」、「類人猿」、「ホームパーティー」、「楽しげなMV」という初期の構想だったと大森は言っている)が意図と異なる形で線で繋がった時に何を連想させるのか、あらゆる可能性を想定して別軸の案まで至らなかった我々の配慮不足が何よりの原因です。>(Mrs. GREEN APPLE公式サイトより引用)
多くの人はこれを真摯な謝罪と受け止め、大森の誠実さが現れていると好意的に受け止めました。しかし、厳しいことを言えば、「配慮不足」との事務的な言葉を使っている時点で、彼らは問題の本質をつかみそこねていると言わざるを得ません。
MVだけではない。曲としての「コロンブス」も、日本でしか通用しない度を越した無邪気さを表しているのです。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
配信: 女子SPA!
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