明治以降、日本は欧米の様式と技術を急速に取り込み、数多くの絢爛豪華な近代建築を建てたが、取り壊されもう二度と見ることができなくなったものも少なくありません。
なかでも、日本の住まいを一気に近代化した時代を超越したおしゃれな集合住宅として多くの人の記憶に残る存在なのが「同潤会アパートメント」。
その大正ロマンあふれるモダンな姿を、『もう二度と見ることができない幻の名作レトロ建築』の著者で、これまで2500棟余りの近代建築を撮影してきた建築写真家・伊藤隆之さんに振り返ってもらいました。
庶民の新しいライフスタイルを提示した個性的なアパートメント
かつて東京と横浜の各地に、まるでヨーロッパのアパートのようなレトロでモダンな集合住宅が建っていた。これらは、「同潤会」という組織が建てた集合住宅で「同潤会アパートメント」と呼ばれていた。現在、表参道ヒルズが建つ場所に建ち並んでいて、表参道のランドマークとなっていた「青山アパート」を覚えている人も多いのではないだろうか。
〈青山アパート〉
Architect Data
・所在地:東京都渋谷区神宮前
・設計:同潤会建設部建設課
・施工:神谷太一郎
・竣工年:大正15年~昭和2年(1926-1927)
・解体年:平成16年(2004)
関東大震災の被災者への住宅共有が目的の不燃化アパートメント
同潤会は、関東大震災後の被災者の住宅供給を目的に設立された内務省管轄の財団法人で、国内外から寄せられた義援金1,000万円を拠出して、震災の翌年に設立された。
木造家屋の分譲住宅を20カ所建設したほか、鉄筋コンクリートによる不燃化のアパートメントを東京に13地区、横浜に2地区建設。アパートだけで4,461戸を供給した。これがよく知られる「同潤会アパートメント」だ。
このアパート群の設計の中心となったのが、同潤会の理事のひとりで東京帝国大学建築学科の教授だった内田祥三(よしかず)だ。彼は研究室の教え子たちの力を借りて、同潤会最初のアパートである中之郷アパート(大正14年完成)を皮切りに次々とアパートを建設した。
配信: 女子SPA!