うつ病悪化の33歳ひきこもり男性 「国民年金保険料」納付でも障害年金請求できず なぜ? 社労士が明かした“盲点”

心身に障害を抱えている人が障害年金を請求する際は、「保険料の納付要件」を満たす必要があります。この納付要件に関する注意点について、社労士が解説します。

国民年金保険料を納付していても障害年金が請求できないケースとは?

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 筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気や障害で就労が困難なひきこもりの人などを対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 障害年金を請求するには、さまざまな条件をクリアする必要があります。浜田さんによると、その中の一つに「保険料の納付要件」というものがあります。この条件を満たさないと、そもそも障害年金を請求することができません。では、保険料の納付要件を満たすためにはどのような点に気を付ける必要があるのでしょうか。浜田さんが30代のひきこもりの男性とその母親をモデルに解説します。

「学生納付特例」の手続きをせず

「33歳になる息子(以下Cさん、仮名)のうつ病が重くなり、外出も困難になってしまったので、障害年金の請求を検討しています。どうしたらよいのでしょうか」

 そのような内容で相談に訪れた母親(64)から、私は事情を伺うことになりました。

 Cさんは大学生のときに就職活動がうまくいかず、そのことが原因で抑うつ状態に陥ってしまったため、自宅近くの心療内科を受診しました。その際にうつ病と診断されたそうです。

 その後、就職できないまま大学を卒業し、アルバイトをすることがありましたが、いずれも長続きしなかったといいます。

 30歳を過ぎた頃からはアルバイトを一切しなくなり、ひきこもりがちな生活を送るようになりました。生活は不規則になり、さらに仕事をしなくなった自分を責め続けたためか、Cさんのうつ病は徐々に悪化。今後も仕事をすることは難しく、収入に不安を覚えたCさんが主治医に相談したところ、障害年金の請求を勧められたそうです。

 Cさんがうつ病で初めて受診したのは、大学卒業前の22歳の頃です。大学生の頃は国民年金に加入していたため、Cさんは障害基礎年金を請求することになります。

 さらにCさんに年金の未納があるかどうかを聞いたところ、国民年金保険料は母親がずっと納付しているとのことでした。また、初診から現在まで同じ心療内科を受診しているということで、障害基礎年金に必要な診断書も入手できそうです。

 母親から聞き取った限りでは、障害基礎年金の請求に関して特に問題点はなさそうです。後は聞き取った内容の事実確認をしていくことになります。事実確認で最初にすることはCさんの年金記録の確認です。年金の未納が多過ぎると障害基礎年金が請求できないからです。

 母親との面談後、Cさんの委任状を入手した私は、年金事務所で年金記録を調べてもらいました。すると、そこで思いがけない事実が判明したのです。

受診前に年金の未納状態を解消しておくこと

 年金事務所で記録確認をした結果、Cさんが初めて心療内科を受診したとき、国民年金保険料がすべて未納状態にあったことが分かりました。

 そこで、私はすぐに母親と2回目の面談を実施し、当時の状況を伺ったところ、次のようなことが分かりました。

 Cさんが20歳になったとき、母親に向かって「学生納付特例(大学生の納付猶予)の手続きは自分でやるから大丈夫」と言ったそうです。しかし、Cさんは学生納付特例の手続きをすっかり忘れてしまい、そのまま何もしなかったそうです。

 よって、この時点では国民年金保険料の納付や学生納付特例の手続きをまったく行っていないため、未納状態になってしまいます。そして、未納状態のまま、Cさんは心療内科を受診。大学卒業後、就職できなかったCさんの国民年金保険料は、母親が代わりにさかのぼって納付したという流れになっていたことが分かりました。

 そこまで確認したところ、母親は憤りを隠せない様子で言いました。

「息子の国民年金保険料は、私がしっかりと納付してきました。それなのに、なぜ障害基礎年金が請求できないのでしょうか」

「確かに国民年金保険料は納付されていました。ですが、障害年金(障害基礎年金および障害厚生年金)では『保険料をいつ納付したのか』が重要なのです。具体的には次の条件を満たす必要があります」

 私は日本年金機構の「障害年金ガイド」を取り出し、保険料の納付要件が書かれているページを提示しました。

■保険料の納付要件(原則)
初診日の前日において、初診日がある月の2カ月前までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険料の被保険者期間、共済組合の組合期間を含む)と保険料免除期間を合わせた期間が3分の2以上あること。

■保険料の納付要件の特例
初診日が2026年(令和8年)3月末日までにあるときは、次のすべての条件に該当すれば、納付要件を満たすものとする。

・初診日において65歳未満であること
・初診日の前日において、初診日がある月の2カ月前までの直近1年間に保険料の未納期間がないこと

「ポイントは『初診日の前日において』というところです。言い換えると『その障害で初めて病院を受診する前に年金の未納状態を解消しておかなければならない』ということです。息子さんが病院を受診した日の前日時点では、20歳から初診日がある月の2カ月前までの期間は全て未納状態にありました」

 私は説明を続けました。

「よって、保険料の納付要件の原則も特例もどちらも満たせていないことになります。以上のことから、息子さんはうつ病による障害基礎年金を請求することができません」

「そんな…。息子はうつ病が悪化してしまい、仕事もできない状態にあります。それでも障害年金はもらえないのでしょうか」

「残念ながら、精神疾患で障害基礎年金を請求することはできません。ですが、別の障害であれば受給の可能性はあります。例えば、脳梗塞を起こして半身不随になってしまった場合や、慢性腎不全になって人工透析を開始した場合などです」

 それを聞いた母親は、がっくりと肩を落としました。

 今回の事例のように、保険料の納付要件を満たさず、障害年金が請求できなかったという事例は後を絶ちません。

 国民年金は20歳から加入することになっており、その保険料は月額1万6980円です(2024年度の金額)。国民年金保険料を納付することが難しい場合、何もせずに放置しておくのではなく、すみやかに免除や納付猶予の相談、手続きをするようにしましょう。

 免除や納付猶予の相談、手続きは、居住先の年金事務所の国民年金課または市区町村役場の年金課でできます。手続きのみであれば、必要書類の郵送による申請やインターネットを利用した電子申請も可能です。

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