母が包丁を持ち出して…貧困の女子高生が“夜の仕事”を踏みとどまれたわけ|漫画『東京のど真ん中で、生活保護JKだった話』

母が包丁を持ち出して…貧困の女子高生が“夜の仕事”を踏みとどまれたわけ|漫画『東京のど真ん中で、生活保護JKだった話』

 生活が困窮している人々に生活費などの扶助や保護を行い、彼らの自立を助けるために設けられた「生活保護制度」。長年、国民のセーフティーネットとして機能している一方で、制度の利用者に対して、SNSでは心無い言葉を投げる人や、強い偏見を抱いている人も少なくありません。

 いまだ世間の風当たりが強いなか、昨年発売されたエッセイ漫画『東京のど真ん中で、生活保護JKだった話』(五十嵐タネコ/KADOKAWA)が話題を呼びました。


 タイトルにある通り、同作の作者・五十嵐タネコさん自身が高校時代に過ごした貧困と、生活保護受給家庭の“リアル”を赤裸々に描いた一冊です。

 そこで今回は、五十嵐さんに反響や学生時代の思い出、家族との関係について聞きました。※本作は2001年頃のエピソードを描いています。




躁鬱が激しい親の言動に振り回された

――作中はコミカルなシーンも多い一方で、家族間の悩みもありのままに描かれていました。とくに、お母さんに預けていたお年玉を生活費に使われていたときのエピソードは、真に迫るものを感じました。

五十嵐:正直、自分のお年玉を勝手に使われた事件は、今も根に持っていますね(笑)。母は統合失調症の影響もあって、1日のうちに躁鬱の状態が変わったり、長期的に調子が悪くなったり……。調子が悪いときは、夜中に喘息の発作が出て咳が止まらない私に「うるさい!」と怒鳴ったり、躁状態のときは「ローンを組んでマンションを買う」と言い出したり、毎日母に翻弄されていました。

母の本当の病名については、高校生になるまで長らく「不眠症」とか「高血圧だから」とはぐらかされていましたが、ケンカになったときに「私は本当は統合失調症なの! だから仕方ないの!」と、勢いでカミングアウトされたんです。


母も病気で苦しんでいたとは思いますが、もっと早く教えてもらえていたら、兄も私ももう少し違った対応ができたのかもしれない、兄も心を病まずに済んだのかもしれない……という気持ちはありますね。子ども心に母の言動に困惑していて、兄も私も母の顔色ばかりうかがう子どもになっていたと思います。

母親が包丁を持ち出すほどの大喧嘩

――お母さんとお兄さんの複雑な関係も印象的でした。

五十嵐:兄は、過干渉で理不尽な母の子育ての一番の被害者でした。兄はいわゆる“いい子”のまま育ってしまい、21歳のときに心を病んでしまったんです。普段の兄は思慮深くて優しく、理由もなく怒る人ではないんですが、引きこもってからは母との口論が日に日にエスカレート。母が包丁を持ち出すこともあって、いつか血を見るんじゃないか……と、ヒヤヒヤしていました。

最終的に兄は病院に入院させられてしまったのですが、私が学校に行っている最中に警察を呼んで兄を措置入院させる計画を立てていたと聞き、そのときも裏切られた気持ちになりましたね。

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