「小児在宅医療」に立ち塞がる壁 増加傾向にある医療的ケア児の現状課題と展望

「小児在宅医療」に立ち塞がる壁 増加傾向にある医療的ケア児の現状課題と展望

現在、「医療的ケア児」が増えているといいます。医療的ケア児とは日常生活を送るために医療のケアが必要な子どものことをいい、小児在宅医療のニーズも高まっています。なぜ、医療的ケア児が増加しているのか、今後の課題などについて、みしま小児科クリニック青葉台の三島先生に聞きました。

監修医師:
三島 芳紀(みしま小児科クリニック青葉台)

2009年東京医科大学卒業後、東京医療センターなど、東京都および埼玉県内のクリニックにて勤務。2014〜2022年、国立埼玉病院(現・国立病院機構埼玉病院)で小児科医をしながら、朝霞中央クリニックにて小児在宅医を兼務。2023年4月、青葉台に「みしま小児科クリニック青葉台」を開業。日本小児科学会小児科専門医、PALSプロバイダー。日本小児科学会、日本小児腎臓病学会、日本小児皮膚科学会、日本小児救急医学会。

医療的ケア児とは?

編集部

医療的ケア児とは、どういう子どものことを言うのですか?

三島先生

厚生労働省の定義によれば、「医学の進歩を背景として、NICU(新生児特定集中治療室)などに長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童のこと」とされています。

編集部

もう少し詳しく教えてください。

三島先生

簡単にいえば、日常生活を送る上で手厚い医療が必要な子どものことを言います。ただし重症度は人によって異なり、ベッドで寝たきりの子どもから普段は自分で歩くことができる子までさまざまです。

編集部

何歳くらいまでを指すのですか?

三島先生

一般的には18歳未満の子どもを指しますが、高等学校などに在籍する場合には、医療的ケア児に含まれます。当院で在宅医療を行っている医療的ケア児は、平均すると8歳くらいです。

編集部

医療的ケア児が最近、増加傾向にあると聞きます。

三島先生

はい。厚生労働省の発表によれば、医療的ケア児は近年、増加傾向にあり、令和2年で一時減少したのを除き、平成25年以降はずっと増加しています。

なぜ、医療的ケア児は増加しているのか?

編集部

なぜ、医療的ケア児は増加しているのですか?

三島先生

大きな理由は「日本の新生児医療技術が進歩している」ということにあります。これまでであれば、出生児の疾患や障害のために死亡してしまっていたかもしれない子どもでも、医療技術が進化したことにより、命を救えるようになりました。その結果、命をつなぐために医療的デバイスを必要とする子どもが増え、結果的に医療的ケア児が増加しているのです。

編集部

医療的ケア児にはどのような医療サービスが提供されるのですか?

三島先生

最も多いのは、「日常的に医療機関を訪れて診察を受けながら、必要に応じて訪問看護や在宅看護のサービスを受ける」というパターンです。

編集部

そのほかには、どのような医療サービスが提供されていますか?

三島先生

そのほか、小児在宅医療による医療サービスが提供される場合もあります。これは医師や看護師らが医療的ケア児の自宅などに出向き、必要とする治療や診察を行うものですが、現実的に、小児在宅医療を受けている医療的ケア児はわずか数パーセントにすぎません。

編集部

医療的ケア児が増加していることで、どのような課題が浮上しているのでしょうか?

三島先生

一番は、介護者の疲労です。たとえば、気管切開を行った子どもであれば24時間吸引を続ける必要があるため、介護者は慢性的な睡眠不足に陥る場合があります。また、子どもに緊急の事態が起きたとき、相談できる医療機関が非常に限られているという問題もあります。かかりつけ医に断られたら、相談先がなくなってしまうというケースは少なくありません。

編集部

そのほか、どのような課題がありますか?

三島先生

医療技術の進化により、医療的ケア児は以前に比べて長命になってきました。その一方、成長して学校を卒業したとき、居宅支援やデイサービスなどのサービスを活用しようと思っても「キャパシティの問題などで受け入れてもらえない」といったことがあります。つまり社会的資源が不足することにより、子どもが成長するにつれて受け入れ先が狭くなってしまうのです。

編集部

確かに、介護生活に対して不安を感じる家族も多いようです。

三島先生

そのため厚生労働省は令和3年、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(医療的ケア児支援法)を成立させ、同年9月より施行しています。これにより、医療的ケア児の家族だけでなく、国や地方自治体も医療的ケア児の支援を行う責務を負うことが明言されました。

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