国産「液体ミルク」は実現する? クリアすべきハードルは?

第3回 赤ちゃん用「液体ミルク」ってどうなの?
粉ミルクのように調乳の必要がないなど、メリットの多い赤ちゃん用「液体ミルク」。現状、国内では製造・販売されていませんが、政府が「日本製の液体ミルク」実現に向け、検討をスタートさせるなど、新たな動きもみられます。日本での一般販売に向けクリアするべき課題について、日本乳業協会の難波和美さんに伺いました。

●日本には液体ミルクの安全規格がない?

まず、現状では国内で液体ミルクを製造・販売するにあたっての「規格」がそもそもないようです。難波さんによれば、現在の法律では乳児用調整粉乳、つまり「粉ミルク」の規格しか定められていないのだとか。

「よって、日本のメーカーが液体ミルクを製造・販売したくても、現状は法律上の問題で叶いません。まずはそこからですね」(難波さん、以下同)

ただし、前述の通り、政府はそうした法整備も含めた動きを加速させています。まず、2017年の2月には国や自治体、市民団体などが参加し、液体ミルクにまつわる初の意見交換会を開催。この関係者会合では、国内での製造開始に必要となる規格基準について議論をスタートさせることを確認、3月31日には実際に審議会による具体的な検討がなされました。

「そもそも液体ミルクの安全性自体に問題があるわけではありません。むしろ、調乳が必要な粉ミルクより菌が混入するリスクは少ないといえます。ただし、それでも赤ちゃんが飲むものですから、慎重に検討していく必要があるでしょう」

なお、先の審議会では、常温での長期保存に必要な殺菌方法、基準などについて検討していく方針が確認された模様。今後、さらに具体的に議論が深まっていくものとみられます。

国産「液体ミルク」は実現する? クリアすべきハードルは?

●規格以外にも…課題は山積み

ただ、規格の問題以外にも、国産液体ミルク実現への課題はあるようです。たとえば、消費者サイドの心理的ハードルもその一つ。これまで馴染みがなかったものだけに、受け入れられるかどうかは未知数です。

「たとえば、見た目の問題があるかもしれません。海外で販売されている液体ミルクは、1年ほど経つと、茶色く変色してしまいます。成分的には全く問題がないとしても、白いミルクと茶色いミルクを比べたら、やはり白いミルクを手に取りますよね。どうしても品質が良くないと思われてしまうので、各メーカーでは変色が起こらないよう開発に力を入れています。そうした意味でも、もう少し時間がかかるものと思われます」

さらに、価格的にも粉ミルクに比べて割高なため、本当に売れるかどうかは分かりません。そのため、いくら政府が働きかけを強めても、採算性の問題からメーカーが及び腰になる可能性も考えられるようです。

では、国産のものではなく、海外製の液体ミルクを個人的に購入することは可能なのでしょうか?

「誤解されやすいのですが、そもそも液体ミルクは『禁止』されているわけではありません。安全基準がないため、日本国内で製造・販売ができないだけです。そのため、国際規格の安全基準を満たした海外製の液体ミルクを個人が購入すること自体は問題ありません」

実際、熊本の震災時にはフィンランド製の液体ミルクが被災地へ届けられ、お湯が使えない状況で非常に重宝されたようです。

実現へ向け、まだまだ乗り越えるべきハードルは少なくありませんが、安全かつ便利な国産液体ミルクの誕生は多くのママパパに歓迎されるはず。慎重を期しつつも、早期の実現を願いたいところです。

(取材・文=吉岡 成味/やじろべえ)