「やる気ない」「独特すぎる」の声も…パリ五輪キャスター・内村航平への批判が的外れなワケ

「やる気ない」「独特すぎる」の声も…パリ五輪キャスター・内村航平への批判が的外れなワケ

 男子体操の美しさに一度魅せられてしまうと、その美技と芸術性を手放しに讃えずにはいられなくなる。


 日本代表選手として、オリンピック4大会で合計7つメダル(金メダル3、銀メダル4)に輝いた内村航平の歴史的偉業は、2008年の北京オリンピック以来、いまだに語り継がれている。

 そんな彼が2024年開催の夏季オリンピック、パリ大会では、アスリートナビゲーターとして現地から熱いコメントを送ってくれている。現役選手としてもナビゲーターとしても内村航平は、なぜ神がかり続けることができてしまうのか?

 イケメン研究をライフワークとしながら、男子体操ファン歴15年以上のコラムニスト・加賀谷健が、解説する。

引退撤回を煽るアナウンサー

 NHKで放送されているパリオリンピック現地中継では、アナウンサーとともに体操元日本代表選手・内村航平が、アスリートナビゲーターとして、さまざまな競技の前後に登場する。

「これまで選手として4大会出場してきましたが、初めて違った立場で関わる」と就任時にコメントを発表しているように、現役オリンピック選手ではない内村をオリンピック番組で見るというのは何とも新鮮な気がする。前回の夏季オリンピック東京大会では日本代表選手だったためか、ナビゲートする立場というよりは現役の代表選手感がとても強い。

 隣にいるアナウンサーからいろいろコメントを求められると、遠からぬ現役時代の感覚を呼び覚ましたかのように、自分もまたもう一度選手としてオリンピックの興奮を味わいたいという趣旨のコメントを何度も繰り返す。リポーターとしてはどこか言葉少ない印象がある。

 そんな内村にアナウンサーが、「現役引退撤回か?」みたいに煽るのも歴戦の元日本代表に対する敬愛のいじりなのだと理解すべきなのか……。いやいや引退撤回とは言ってませんよとクールにはにかむ内村は、さすがのかわし方だなと思った。肝心の競技自体より内村特有のニヤニヤした表情を見ているほうが筆者はむしろ楽しくて仕方がないのだけれど。

出場する側から伝える側へ


 喋りのプロであるアナウンサーは呼吸するように言葉を繰り出すが、別に内村が簡単にペラペラ話す必要はない。だけどSNS上やネット記事では辛辣な意見が多く、常に淡々とした内村のコメントが「やる気がない」と批判されてしまう。そもそもやる気というのは表面的な態度だけで測れるものだろうか?

 内村航平という人は、現役時代からずっとクールで、淡々としていた。それが内村の持ち味だし、ナビゲーターになってもそのスタイルは変わらないだけ。深夜から朝方まで注目の競技が放送されることを考えると、あれくらいのロウ・キーなテンションでコメントしてくれたほうが聞き心地がいいけどなぁ。

 内村が現役を引退したのは2022年。引退イベントには6500人のファンが集まった。現在は、日本初のプロ体操選手として活動している。オリンピック選手でなくとも、彼は今でも現役の体操選手なのだ。ナビゲーターを引き受けた背景には、出場する側から伝える側へ幅を広げようとする意志もある。

 だから単に現地の様子を客観的にリポートするのは、内村の役目ではないと筆者は思うのだ。内村にしか感じられない、強烈な主観に基づいたコメントで構わない。それが唯一無二の内村節の説得力なのだから。

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