ていねいに暮らしたいけど、忙しくて出来ない人へ。長谷川あかりさんが考える料理のヒント

ていねいに暮らしたいけど、忙しくて出来ない人へ。長谷川あかりさんが考える料理のヒント

“バズるような料理”を届けたいわけではない


小竹:この番組の第1回目のゲストの有賀薫さんが「スープはバズらない」と言っていたのですが、長谷川さんがレシピを投稿するとすぐにバズりますよね?

長谷川さん(以下、敬称略):そんなことないですよ(笑)。

小竹:最初に1万いいねついたレシピは「魚介中華粥」だそうですね。

長谷川:よくこれがバズったなって今でもすごく思うのですが、最初にバズったのは中華粥ですね。

寒暖差で春バテしている方へ、身体に優しい本格魚介中華粥のレシピです。米1合をごま油で炒めたら、熱湯1.2ℓ•帆立缶•生姜を加え蓋して40分弱火で煮る→塩(小1)•魚醤(小1/2)で調味後、白身魚刺身を乗せ余熱で火を通し完成。魚醤はしょっつるを使いました。本当に出汁の素入れてないの?と驚かれます pic.twitter.com/H8mdlSekW5

— 長谷川あかり (@akarihasegawa) April 13, 2022

小竹:そもそもレシピ投稿を始めたのはいつからですか?

長谷川:大学を卒業して時間ができてからなので、2022年の4月に始めて、そこから2週間くらいでこの中華粥でバズって…。本当にびっくりしたんですよね。

小竹:え!?すぐじゃないですか?

長谷川:なぜバズらないと思っていたかというと、有賀先生がスープはバズらないと仰っているのと似ているのですが、バズるような料理を届けたいわけではないというのが大きくて。

小竹:そうですよね。

長谷川:だから、バズらなくて当たり前だと思っていて、そのバズらなさがいいというのは自分の中でありました。この魚介中華粥もバズりそうには思えないですよね。

小竹:しょっつるとか太白ごま油とかって書いてありますもんね(笑)。

長谷川:そう!しょっつるに太白ごま油にホタテ缶に、最後に鯛のお刺身を乗せている。手軽でもないし、40分煮るから時間もかかるし。絶対にバズらないじゃないですか。

小竹:たしかに。

長谷川:どう考えてもバズらない料理だけど、絶対においしいし、体的にも心地がいいし、気温や体調にもマッチすると思って投稿したらバズったので、意外とこういうバズらない料理をみんなは求め始めているのかなって気づいたんです。

小竹:誰かがシェアしたとかではなく、じわじわと拡散されていった感じだったのですか?

長谷川:投稿して1時間くらいで2000いいねとか、すごい勢いで伸びたので、なぜだろうと少し不安になりました。寒暖差で春バテしている方に限定して投稿したので、「私だ!」と思ってくれた方が多かったのもあると思います。

小竹:うんうん。

長谷川:「中華粥」という多くは語らずとも体にいいと感じさせる料理名も良かったと思います。だしの素を入れていないことも驚かれたので、シンプルな調味料で旨味が再現できたら料理上手な気がしてうれしいといった点もあったのかも。自分事としてレシピを捉える方が多かったのも要因の1つの気がしますね。

小竹:でも、このときは何もわからなかったのですよね?

長谷川:何もわかっていないです。自分が発信したい料理を当時はまだうまく言語できていなかった。簡単すぎず難しすぎず、バズるレシピではないけど、ちょっとおしゃれで作ってみたくなるみたいなぼんやりとした理想の家庭料理が自分の中にあって。言語化できないからバズらないだろうと思っていたけど、そのぼんやりさを求めている方が結構多いのかもとここで気づきましたね。

小竹:レシピを作るときにはそういった意識を大事にするようにもなりましたか?

長谷川:なりましたね。料理は生活の中に溶け込んでいくものだから自分事になる。おいしそうとかではなく、自分の生活に馴染む、自分の体の状態を良くしてくれるレシピだというのを想像してもらえるような文章はすごく意識しています。

小竹:大事なことですよね。

長谷川:やみつきとか沼るとか、いわゆる料理のバズワードみたいな方向性ではなくて、今の気温がこうだからこういう体調にこう馴染んでいって、自分はこういう気持ちになったとか。生活の中に取り入れられそうだと思ってもらえる文章や材料、料理名などを意識しています。

小竹:料理のことよりも、あなたにとってという感じですね。

長谷川:そうですね。「この料理がおいしいです」より「この料理はあなたをこうさせてくれるものです」という伝え方のほうが、自分の理想としているところに近づけるなと思います。

誰かを助けられるようなレシピを考えていきたい


小竹:長谷川さんは「寒暖差で春バテしている方」とか「いたわりごはん」といったキーワードを使われていますが、お疲れ気味の人に伝えたいという思いがある?

長谷川:今は大体の人が疲れていると思うんですよね(笑)。例えば、共働きでお子さんもいてとかで仕事をしながら家事もするとなるとすごく大変じゃないですか。そんな中で料理に100%時間を注いで頑張れる人って、たぶんいないと思うんです。

小竹:いないでしょうね。

長谷川:そう考えると、今の家庭料理は疲れている人が作るものだと思うので、家庭料理を発信すると考えたときに誰を助けたいのかとなると、「みんな疲れている」から始まっちゃいますね。

ある日のお疲れ様献立。疲れが溜まると血の巡りが悪くなるのか身体がむくむので、むくみ解消を意識した食材をチョイス

小竹:レシピの中に「助けたい」という思いがあるのですね。

長谷川:あります。誰が助かるのか、どうやって助けるのか、どの部分が助かるのか。そういうコンセプトの部分を決めてからレシピに落としていくので、こういう料理がおいしそうみたいなことから入ることはほとんどないです。

小竹:褒められたいという思いがあって、それによって自分の気持ちが乗っていくとさっきも言っていましたが、それに近いですね。

長谷川:近いかもしれない。いろいろなタイプの料理家さんがいらっしゃいますが、私は決してアーティスティックな人間ではないですし、プロの料理人とも全く形が違うので、おいしいものをこう調理してこう届けるとかは正直ないんです。ただ、誰かが助かるようなレシピを作ることに興味があるので。

小竹:ほかに、レシピを書いているときに気をつけていることは?

長谷川:こういう気持ちになるから作ってほしいと思っていても、作りたいと思ってもらえないと意味がないし機能しない。じゃあ、自分が高校生のときにどういう基準でレシピ本を買っていたかというと、結局レシピ名なんです。

小竹:はいはい。

長谷川:外食に行ったときも、メニューを見て「これ絶対に頼みたい」と感じる料理は、結局は料理名で選んでいる。「いちじくとブルーチーズの春巻き」って書いてあったら絶対頼みたいし(笑)。

小竹:あるある(笑)。

長谷川:これは絶対に食べたいと感じるけど、ちょっと想像がつかなくてワクワクする食材の組み合わせとか、その食材の組み合わせからは想像がつかない調理法とか、そういうのをタイトルに入れることで、これは自分の生活に役に立ちそうだし作ってみたいと感じてもらえる。

小竹:疲れていたとしても。

長谷川:そうそう。疲れているけど、これは作って食べてみたいと思ってもらえるような料理名をすごく考えています。

小竹:長谷川さんのレシピは蒸し料理が結構多いですよね?

長谷川:タイトルに“蒸し”と書いてあるだけで、疲れている自分をいたわってくれそうなイメージが一発で伝わる。だから、わかりやすくコンセプトが伝わるし、多くを語らずとも刺さってほしい人に届いて、届いたら助かるであろう人に届きやすくなるんです。

小竹:“焼く”より“蒸し”?

長谷川:元気がほしいときやがっつり食べたいときは“焼き”でもいいけど、仕事で疲れた後に重い腰を上げてご飯を作るというときには“蒸し”のほうが私はうれしい。そこは私の感覚でやっているだけですけどね。“ソテー”とか“焼き”は、自分のテンションが上がっているときじゃないと私はハードルを感じるので、“蒸し”とか“煮る”になりますね。

「炊飯器は蒸し器」と長谷川さん。ご飯を炊くついでの温野菜サラダ

小竹:あと、“シンプル”とか“すっきり”とかも多いですよね。

長谷川:でも、“すっきり”を言いすぎて、それをご指摘いただいたこともあるんです。自分のXで検索をかけてみたら、めちゃくちゃ“すっきり”って言っていて(笑)。すっきり詐欺になっちゃうと思って、最近はちょっと控えています(笑)。

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