科学的アプローチを重視
近年、日本の卓球選手も、中国のプロチームで技術を磨くケースが増えてきました。中国各地のチームに入り、中国人コーチのもと、中国人選手に交じって中国語しか通じない世界で経験を積んでいくのです。すると、選手としての能力が飛躍的に伸びていくのですから、中国のシステムはやはりすごいと思わざるを得ません。
そんな日本人選手の代表例が福原愛さんですが、以前、福原さんが日本のスポーツ専門誌で、大変興味深いコメントを出されていました。
「中国語は、卓球についての言葉が豊富なんです。例えば、スマッシュについていえば、日本では『強い』、『弱い』それに『普通』の3種類くらいしかないと思いますが、中国では私の感覚として、30から10段階刻みで、120くらいまで表現する言葉がある感じなんです」※「Number」795号(2012年1月号)生島淳さんのインタビューより
中国卓球の精密さがよく表れているエピソードです。
また、科学的アプローチも重要な要素です。コーチングチームは、選手一人ひとりの特性に合わせてトレーニング計画を練るわけですが、先進的な技術分析、肉体訓練方法を基盤にして、選手が技術、肉体、メンタル、全てにおいて最高の状態を保てるように考えます。科学的アプローチがあってこそ、選手たちの競技能力が常に向上し、選手寿命も長くなり、中国卓球チームの安定的な発展にもつながっていくとの考えです。
政治とスポーツは切り離せない
中国卓球の強さは、中国が社会主義で、共産党一党体制であるという特殊事情も深く関わっています。
2024年7月24日、中国中央電視台CCTVのニュースで、習近平国家主席の言葉が紹介されました。
「スポーツの強さは、中国という国の強さになる。国が栄えればスポーツも栄える」
2022年1月、北京・冬季オリンピックの直前に国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と面談した折、「冬季五輪が中国に注入するパワーや活力が気になる」と発言し、習近平主席の“スポーツ観”として注目されました。「スポーツの力は国力に比例する」というのは、共産党中国には深く根付いている考え方です。
中国は一党独裁国家なので、トップがどう考えるかで全てが決まります。トップ中のトップ、国家主席の発言はそのまま国家の指針となるので、国のスポーツ支援の度合いは西側諸国の比ではありません。
中国には「国家体育総局」という国務院直属の機関があり、スポーツ全般を管轄しています。中でも卓球は国の重点科目なので、特に重要視されているといってもよく、卓球界の成功も、国家の支援のもと、それに伴う数々の投資があったからというのは否めない事実です。
巨大な体育館の建設、1000台近い卓球台の無償提供など、卓球の基本的なインフラを整えることから始まり、国際大会への選手団派遣まで、国の手厚い支援があってこそ、今日の地位を築いているといっても過言ではありません。
このような状況のもと、金メダルは選手の人生を一変させます。
卓球ではないのですが、2020年の東京オリンピック・女子高飛び込みで、14歳の無名の少女が金メダルを獲得しました。広東省郊外の貧しい農村家庭に生まれた全紅嬋選手です。
彼女は7歳のときに才能を見出され、体育専門学校に所属することになりました。普通なら遊び盛りの子どもですが、彼女は「練習以外、何もすることがない生活だった」とメダル獲得後のインタビューで答えています。「休暇で家に戻っても、(遊びに)行くところもない。家にはそんなお金はなかったから」。
彼女のモチベーションは「賞金が欲しかった」なのだそうです。「お母さんが病気だから、そのお金で病気を治したかったから頑張った」。しかし彼女は、母親が何の病気かは分からないと言います。なぜなら「病名が書かれた字が読めないから」。
全紅嬋選手の金メダルは、小学生としての基本的な勉学、子どもとしての娯楽など、一切を犠牲にした上でもたらされていました。
金メダリストになって、彼女は貧困から脱却できました。住宅を提供され、いくつかの企業からはボーナスを受け取り、地元・広州市ではランドマークの広州タワーが彼女のためにライトアップされ、多くの遊園地や動物園が彼女を招待し、治療費に困っていた母親と、持病を持つ祖父に対して、病院は無償で医療を提供し、病室も個室が与えられたのだそうです。
才能ある子どもの能力を伸ばすというのは、もちろん素晴らしいことです。しかしその育成方法には、賛否両論があるのも事実です。
今回のオリンピック・パリ大会の卓球において、中国は堅実にメダルを獲得しています。歴史では先んじていた先輩格の日本は、どこまで中国に肉薄できるか、改めて注目していきたいと思います。
配信: オトナンサー
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