【リレーエッセイ「ラブレター from 酒場」】酒場で偶然会った人/パリッコ

 数年前のある休日の昼。とある出版社の編集さんが、仕事の打ち合わせをしたいと連絡をくださいました。

 その編集さんとは数年来の付き合いで、勝手知ったる仲。「パリッコさんの地元まで行きますし、軽く飲みながらでも大丈夫です」と言ってくれています。

 こういう場合、僕はあえて、自分は遠慮という言葉を知らない人間を装い、真に受けるようにしています。場所は、せっかくだから地元らしい店をと、打ち合わせ場所に「豊島屋」を提案しました。

 豊島屋は、石神井公園の池のほとりに建つ、売店兼休憩処。歴史は相当に古く、木造の味わい深い建物は、まるで時代劇に出てくる峠の茶店のよう。僕は実家も近く、子供時代からよく遊びに来ていたのですが、その頃とまったく変わっていません。

 軽食の他におでんや煮込みなどのおつまみもあり、小上がりの座敷でビールや日本酒を飲むこともできる。子供にとっても大人にとっても、天国のような場所なんですよね。

 確か初夏の、抜群に天気のいい日で、きらきらと輝く池の水面を眺めながらビールをちびちびやりつつ、「どんな企画がいいですかね~?」なんて話をさせてもらっていました。これが仕事の一環なんだから、改めて、酒場ライターってのんきなもんですよね。

 しばらくすると、「コバ!」という誰かの声。ちなみにコバというのは、僕の小中学校時代のあだ名。声のする方を見ると、中学の同級生で、20代半ばぐらいまでよく一緒に遊び、酒もどれだけ飲んだかわからない友達のH君がいました。

 どうやら子供を連れて公園に遊びに来て、ちょっと休憩に寄ったらしい。しばらく話をしていると、さらに奥の座敷にいた1人の男性が「あれ? もしかしてコバとHじゃない?」と声をかけてきます。見ると、ずいぶん風格が増しているものの、中学校時代に一番よく遊んでいた友達の1人、R君!

 常軌を逸したようにやってたな~、R君の家で、スーパーファミコンの「ストリートファイターⅡ」を。R君もまたご家族連れで、2人とも、一度は地元を出つつ、結局、この辺りに戻ってきて暮らしているとのこと。

 と、不思議なメンツで乾杯するという謎のシチュエーションが印象深い昼下がりになったのですが、申し訳なかったのは編集さんに対して。さすがに数分で切り上げて仕事の話に戻ったものの、「石神井ってすごいですね。いつもこんななんですか…」と絶句気味におっしゃられていました。いや、こんなことは僕も初めてで…。

 さて次回のテーマ。「地元の好きな店」でどうでしょう?

パリッコ:酒場ライター。著書に「酒場っ子」「天国酒場」など多数。スズキナオ氏との酒飲みユニット「酒の穴」としても活動している。「缶チューハイとベビーカー」が絶賛発売中!

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アサジョ
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