●幼少期のリビング学習は受験にもプラスに働く
リビング学習は、「リビングを勉強の場」とするのではなく、あくまでも自然な学習を促すための場と理解するべきと小川さんはいいます。
「リビング学習と聞くと『勉強道具をリビングに置けば勝手に勉強してくれるようになるんでしょ』などと勘違いされる親御さんもいるかと思います。そうではなく、子どもがのびのびと学習しやすい空間を作ることに軸を置いてほしいんです。リビングの広さにもよりますが、すぐに手が届くところに本棚があって、そこに図鑑や辞書があって、部屋にこもらなくてもちょっと動いたときに情報に触れられる。そういう空間が理想です」(小川さん、以下同)
こうした環境を整えておくことで、本格的な“勉強モード”にも順応しやすい下地が整うのだそう。
「中学受験で成功するためには、小学4年生から6年生の『受験生活』をどう進めていくかが、ものすごく大事です。その3年間を前向きに頑張るためには、幼少期から小学校3年生までの過ごし方がポイントになってきます。ただ、それは少しでも早く塾に入れなさいということではありません。この期間は子どもの成長過程に合わせ、学習の素地を整えてあげることが何より重要です」
そうした素地ができていない段階で塾通いをさせても、むしろ逆効果になってしまう可能性があるようです。
「8歳から9歳は、決まったスケジュールをこなし、積み上げていく勉強に対応することがまだ難しい年齢です。素地ができていない段階で、目標達成型の勉強を入れると逆効果になってしまいます。素地が整うまでは、のびのびと好きなことにのめり込ませて得意分野を作り、“自信の種”を育ててあげることが重要です」
本人が「何かに集中した、熱中した」経験を持つことで、受験のような目標達成型の学習への移行もスムーズになるんだとか。
●リビング学習は子どもの心の動きにあわせる柔軟性が必要
また、学ぶ面白さを感じるようになるためには、親が何かを強制することも避けるべきと小川さん。
「基本的に、子どもは面白いことしかしないです。そして、面白いかどうかは、本人が勝手に決めます。こればかりは親がどう頑張ってもどうにもなりません。面白くないものは面白くないし、やりたくないことはしない。それを強制して従わせても、心は動きません。
大人は、行動することで心を連動させることができます。『無理矢理でも笑顔を作って笑ってみると実際に楽しくなってくる』など、脳をだますことができますが、子どもはそれができないのです。子どもは心が動いてから身体が動きます。それが子どもの良さです。ですから、子どもに脳をだますようなアプローチをすることは避けたいですよね。そう考えると、子どもの心が動いたものに対して、背中を押してあげる方が効果的なんです」
その第一歩として、リビングに図鑑や辞書、世界地図を置くことから始めてみてほしいと小川さん。
「リビングが学びの環境になるかどうかは、子ども次第。図鑑や辞書、地図を置いてみるというのはあくまでスタートに過ぎません。その道具を、子ども自身がどう使うか、ここから環境が始まるんです。
親はあくまで子どもが学びに触れるきっかけを作るだけで、子どもが本や地図に出会ってどういう反応をして、どういうふうに遊び始めるかということに対しては干渉しすぎないほうがいいでしょう。リビング学習の環境作りで最も重要なのは、“子ども自身の好奇心”であることを忘れないでください」
リビングを学習の場に仕立てたとしても、子どもが急に学習に意欲的になるとは限りません。だからといってガッカリせず、準備だけしたら、あとは子どもの心が動くままに見守る大らかさが必要になるようです。
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)