なぜオリンピックのニュースはこんなにも長すぎるのか。多少スポーツやオリンピックに興味のある人でも、連日のニュースやワイドショーにおけるパリ五輪関連の放送時間のあまりの多さには辟易しているのではないか。ましてや、関心のない人にとって、五輪期間はほぼ苦痛しかないだろう。
パリ五輪が始まってからも、重要なニュースは次々に起きている。むしろ株価や金利などの経済ニュースや、国際情勢、そして天災と、五輪以外の重大なニュースが異常な頻度で発生していると言っても過言ではない。
テレビ各局がそれなりに視聴率を稼ぐ五輪の話題を大きく扱う理由はあるわけだが、その反面、「長々やるしかない」側面もある。残念ながら「五輪関連をちょうどいい長さで収めて、他の大切なニュースをやることができない」悲しい裏事情がテレビ局にはあるのだ。
この状況は、今テレビ業界が抱える問題点が象徴的に現れているので説明していく。(テレビプロデューサー・鎮目博道)
●スポーツニュース番組って最近見た?
『News23』(TBS)に出演したコメンテーターによる「反オリンピックなので、全然見ていない」との発言が話題になった。
この気持ちはよくわかる。私も個人的には五輪のニュースが気にはなるけれど、「もういいから他のニュースを早くやらんかい」と日々、テレビ画面に毒ついている。
ざっくり総括してしまうと、テレビが延々と五輪ニュースをやらざるを得ない背景は2つある。まずは、1つ目の「スポーツニュース制作体制の極端な弱さ」から説明していこう。
テレビ業界は右肩下がりの状況が続く。若年層を中心に視聴離れが続き、広告主のテレビ広告出稿離れが加速するにつれて、番組制作費は減少の一途を辿り、制作会社の倒産が過去最高を記録する。「斜陽産業」と言ってもよい厳しい状況だ。
各局が制作に全力を注ぐのは、まだ若年層ウケが期待できて、ビジネスに繋がるコンテンツとして、ドラマなどの配信でも人気のある番組だ。
そうしたドラマなどに少しでも多くの制作費を投入するため、ニュースやワイドショーは「できるだけ安価に放送時間を埋めたい」というのが各局の本音だ。
ニュースは高齢の視聴者にウケがよく、安定した視聴率を稼げるものの、広告収入は割りが良くない。
●合理化・人員削減のあおりを受けるニュースの取材・制作部門
このような状況で「ニュース取材・制作部門」は合理化と人員削減が続いている。その中でも「スポーツニュース制作部門」は特に縮小された部署の一つと言える。
かつての「スポーツニュース番組」が現在ではほとんどなくなってしまったことにお気づきだろうか。大谷翔平選手が登場するまで長らくの間、スポーツニュースはそれほど視聴率を取らなかったからだ。
放送枠は短くなり、ニュース番組の短いコーナーとして存在するくらいになっていった。スポーツニュース制作部門はどんどん必要性が薄くなり、縮小されていったのだ。だから、いざ五輪のような大きなスポーツイベントとなると、自力ではとても対応できない。
スポーツ局本体の人員は競技の放送だけでもう手一杯になる。報道局の各部署、各番組から多くの応援をもらってようやく対応できる。
五輪では、現地と東京に2つの「本部」が作られる。現地から送られてきた映像や情報などを一括して管理し、現地に指示を出しつつ原稿を書いたり映像編集をするのが東京の本部だ。この東京本部に多くの優秀な報道局の記者やディレクターが応援要員として配置される。
だから、スポーツ以外のニュースが発生したときに、取材・対応できる人員の数はかなり少なくなる。「スポーツニュース制作部門の極端な弱さ」によって、報道本体のニュース対応能力はかなり弱まるわけである。
配信: 弁護士ドットコム