●五輪の呪縛…横並びの競争から降りられないテレビ業界
そして、テレビが延々と五輪ニュースをやらざるを得ないもう一つの理由が重なる。それが「横並びの競争から降りられないこと」である。
五輪のニュースを報じるためには、開催国にかなりの数の人員を送り込まなければならない。そしてこの「現地本部」は、プレスセンターも現地スタジオもいわば「事前申請で各局の取り合い」となる。
このとき、「他局に差をつけられたくない」という横並びの競争原理が働く。
「五輪の現地に送り込む規模」を維持するためには、スポーツニュース番組がほぼ存在しない今となっては、各ニュース・ワイドショーが分担して「それなりの人員」を出すことがほぼマストとなるわけだ。
各番組が現地に送り出すのは「メイン級の出演者」と「エース級のディレクター」となるが、彼らが競技自体に触れることはほぼできない。五輪の競技映像は、オフィシャルの国際映像に限られるし、取材の自由は極めて少ないからだ。
それでは、現地に送り込まれた人がすることは、自然と周辺取材になってしまう。
会場周辺の盛り上がり、観客の反応、その他のサイドストーリーを取材して、中継でそのVTRを織り込みながら話すことになる。このようなシーンは視聴者もすぐに思い浮かべることができるだろう。
番組としては「メイン出演者とエースディレクター」を送り込んでいるわけだから、多少内容が薄かろうが、半ば無理矢理だろうが、とにかく彼らに周辺取材を毎日させ、中継をさせなければ現地に派遣した意味がなくなる。だからそれなりの時間を毎日用意することになる。
●「パリ五輪の本日のダイジェスト」が流れるのは「もったいない」から!?
テレビ業界関係者以外は知らない人も多いだろうが、そもそも五輪オフィシャルの競技映像は、各番組ごとに使える長さが厳格に決められている。
だから、番組側は「制限いっぱいまで使わないともったいない」と考えがちである。競技映像を目一杯使った「本日のダイジェスト」を毎日放送するのもそのような事情があるわけだ。
こうした説明を聞いてから、五輪ニュースを見てみると、次のような構成になっていることが多いことに気づく。
(1)ギリギリいっぱいまで伸ばした競技映像VTR
(2)現地からの周辺取材とキャスター中継
(3)現地スタジオに呼んだ選手の生中継
(4)選手の地元の人たちや親類縁者、学校の後輩の反応
(1)と(2)は、何がなんでも毎日放送される。(3)と(4)も実は「横並びの競争原理」で必ず追加される。
これらがなぜ「横並びの競争原理」なのかというと、(3)は、生出演可能な選手の時間を分刻みで割り振って「何時何分から何分間どこどこの局、それが終わったら次はどこどこの局」と毎日取り合っているからで、そこに手を挙げなければ他局に負けてしまうという、まさに横並びの事情からも選手の生中継を「やらざるを得ない」部分があるのだ。
そして(4)も、その地元を管轄する地方局の間で各局横並びの競争になったり話し合いでの共同取材になったりするわけで、これも「やらなければ他局に遅れをとる」ということになってしまう。
結果的に、とにかく五輪の放送時間は長くなってしまう。
「ここまで長くやらなくても…」と視聴者が感じようが感じまいが、上述の「4点セット」は局側の事情でどうしてもやらざるを得ない。
4点セットではどうしても、負けた選手はスルーされてメダルを獲った選手にだけ脚光が当たることになるし、その選手の生い立ちや友人の話やサイドストーリーなど、取材される対象もだいたい同じような内容になりがちで、「各局の報道の仕方はいかがなものか」という批判の声も上がることになってしまう。
配信: 弁護士ドットコム