映画的な唇同士の接触
それにしてもドラマ作品に出演する小雪の姿を久しぶりに見た気がする。現在、47歳。(あまり好ましい表現ではないが)稀代の“クールビューティー”と形容されていた頃が懐かしい。
もともとはパリ・コレクションにも参加するモデル出身だった彼女が俳優デビューしたのは、織田裕二主演の『恋はあせらず』(フジテレビ、1998年)。映画俳優としての才能もすぐに開花し、日本アカデミー賞主演女優賞を受賞した『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)など、公開から20年近く経っても小雪マジックの華やかさは色褪せることがない。
「ウイスキーが、お好きでしょ」のメロディでお馴染みのサントリーウイスキー角瓶テレビCMのイメージが強い人も多いと思う。
近年では、一ノ瀬ワタル主演のNetflix配信ドラマ『サンクチュアリ-聖域-』(2023年)で相撲部屋に活気を供給する女将を演じたり、朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合、2023年)では、『極道の妻たち』(1986年)の岩下志麻ばりの関西弁で凄みを利かせたりする。
でも筆者が驚嘆し続けているのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』よりむしろ前の映画作品。エドワード・ズウィック監督作『ラスト サムライ』(2003年)だ。近代的な明治政府軍に対する旧武士階級の敗残の美学を描いた同作で、主演俳優トム・クルーズの相手役になったのが小雪だった。
渡辺謙扮する士族リーダーの妹・たか(小雪)が、自分の夫を殺した相手であるネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)に、夫の鎧を着てほしいと頼む場面。無言の緊張感が持続する画面内、たかがネイサンの服を脱がせていく。
ある瞬間ふとトムと小雪の唇と唇が重なる。何か触れてはいけないものに触れてしまったかのように、小雪が後ろめたくさっと唇を引く。単なるキスでも接吻でもない。それはどこまでも甘く、映画的な唇同士の接触だった。
世界的な存在になった瞬間
普通に考えて、トム・クルーズと唇を重ねた日本人俳優はたぶん小雪だけだろう。映画史に記憶された場面を生きた小雪はあの瞬間、確かに世界的な存在になった。そしてそれが今でもゆるやかに彼女の俳優人生を持続させている。
私生活では2011年に松山ケンイチと結婚。3児を出産した。それでも俳優としてトム・クルーズの唇と接触した肉の記憶は永遠に残る。すごく大げさなことを言ってるように聞こえるかもしれないが、小雪とはそういう神秘を体現してしまった俳優なのである。
結婚以降、俳優としての露出は減った。それなのに、ぼくらが小雪の存在を忘れたことがあっただろうか? 連ドラ初主演作『きみはペット』(TBS、2003年)で松本潤とトレンディなラブロマンスを演じていた頃は確かに懐かしい。
でも、同作以来14年ぶりの主演ドラマとなった『大貧乏』(フジテレビ、2017年)の小雪に対しては、復帰作だなどと軽々しく思わなかった。『大貧乏』の裏で放送された木村拓哉主演ドラマ『A LIFE~愛しき人~』(TBS、2017年)には、松山ケンイチが出演し、リアルな夫婦対決だと形容されてもいた。それがどれだけ小雪という存在を矮小化するのか。小雪とは、いつでも現在進行形で特別な存在なのだから。
配信: 女子SPA!