「親知らず」抜歯のリスクや対処法はご存じですか? 口腔外科専門医が“抜歯の不安と疑問”を解決!

「親知らず」抜歯のリスクや対処法はご存じですか? 口腔外科専門医が“抜歯の不安と疑問”を解決!

「親知らずの抜歯って痛い? 腫れる?」「時間や費用はどのぐらいかかる?」「抜歯後、日常生活はどうなるの?」など、親知らずの抜歯に関する様々な不安や疑問を持っている人は多いと思います。そこで今回は、親知らずの抜歯前に知っておきたい基本事項や抜歯のリスク、抜歯後の注意点について「おがわ口腔外科クリニック」の小川先生に解説していただきました。

≫「親知らずは抜歯すべき?」に歯科医が回答! 抜く・抜かないの判断や抜歯の注意点とは

監修歯科医師:
小川 尊明(おがわ口腔外科クリニック)

愛知学院大学歯学部歯科学科卒業。香川医科大学(現・香川大学)医学部大学院修了。その後、さくら総合病院歯科口腔外科、香川大学医学部歯科口腔外科学講座などで経験を積む。2019年、香川県木田郡に「おがわ口腔外科クリニック」を開院。口腔外科専門の歯科医院として、難症例の親知らずの抜歯やインプラント治療など、専門性の高い治療を提供している。医学博士。日本口腔外科学会専門医・指導医、日本口腔インプラント学会専門医。

親知らずの抜歯の基礎知識 痛みはいつまで続く? 時間や費用の目安は?

編集部

そもそもなぜ、親知らずを抜歯する必要があるのでしょうか?

小川先生

「親知らずがあるから、必ず抜歯する必要がある」というわけではありません。しかし、一番奥に最後に生えてくる親知らずは、萌出に必要なスペースが不足しがちで、これによって横向きや斜め向きに生えたり、頭しか生えてこなかったりするケースが少なくありません。このような親知らずは、細菌の温床になりやすく、むし歯や歯周病のリスクが高まるほか、周囲の歯にも悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、これらの問題が発生する前に、予防的に抜歯をおすすめすることがあります。さらに、矯正治療を予定している患者さんについては、治療前に親知らずの抜歯を推奨しています。

編集部

親知らずの抜歯と聞くと、痛そうなイメージがあります。実際、痛みはどの程度なのでしょうか?

小川先生

抜歯中は局所麻酔をしっかり効かせるので、ほとんど痛みを感じることはありません。稀に麻酔が効きにくいこともありますが、その場合は追加で麻酔を注射します。術後は麻酔が切れると痛みを感じるようになりますが、多くは痛み止めで抑えることができます。痛みのピークは抜歯後2~3日程度で、1週間程度で治まります。

編集部

親知らずの抜歯には、どのくらいの時間がかかりますか?

小川先生

親知らずの位置や状態によりますが、口腔外科を専門とする歯科医(口腔外科専門医)が抜歯する場合の平均時間は、10~30分程度です。簡単な症例は数分で終わることもありますが、難しいケースではもう少し時間がかかることもあります。

編集部

親知らずの抜歯の費用に保険は適用できますか? 具体的な費用の目安を教えてください。

小川先生

親知らずの抜歯費用は保険が適用されますが、具体的な費用については親知らずの状態や抜歯の難易度によって異なります。3割負担の場合のおおよその目安として、簡単な抜歯で1000円前後、難しい抜歯で1500円前後、骨に埋まっているケースで4500円前後です。これに初診料や再診料、検査代、薬代などが加算されます。

親知らずの抜歯に危険はない? 起こり得るリスクとその対策

編集部

親知らずの抜歯に危険やリスクはないのでしょうか? もしあれば、考えられるリスクを教えてください。

小川先生

全くリスクがないわけではありませんが、適切な対策をおこなうことでリスクを最小限に抑えることは可能です。起こり得る主なリスクとして、術後の出血や感染、傷口の治癒不全、さらに下の親知らずの場合は神経の損傷による術後のしびれや知覚麻痺などが挙げられます。ただし、これらのリスクは、術前の検査と術後のケアで大幅に軽減できます。

編集部

親知らずの抜歯に際して、特に注意が必要なケースはありますか?

小川先生

糖尿病で血糖のコントロールができていない人や免疫力が低下している人は、術後の感染症や治癒不全のリスクが高い傾向にあります。また、高血圧で血圧のコントロールが上手くできていない人も、抜歯中に急激に血圧が上昇したり、出血量が多くなったりするリスクがあるため、慎重な対応が求められます。以上のケースに加えて、骨粗しょう症治療薬(BP製剤)や抗凝固剤(血がサラサラになる薬)、免疫抑制剤、抗がん剤を服用中の人に関しても細心の注意が必要です。これらの既往のある場合、事前に主治医に相談し、抜歯が可能かどうか、抜歯に際してどのような点に注意が必要かをよく確認しておく必要があります。

編集部

親知らずの抜歯で起こり得るリスクを軽減するために、患者側ができることはありますか?

小川先生

患者さんができることとして、術前の体調管理や禁煙、術後の適切なケアなどが挙げられます。特に、術後は歯科医からの注意事項をしっかり守り、口腔内の清潔を保ちながら傷口を安静にすることが大切です。また、何か異常を感じた場合は、自己判断せずに早めに担当歯科医に相談してください。

編集部

万が一、抜歯後に治癒不全やしびれ・麻痺などのトラブルが生じた場合、歯科医院ではどのような対応がおこなわれますか?

小川先生

術後感染による痛みや腫れ、治癒不全に関しては患部の洗浄・消毒をおこなったうえで、抗菌剤や消炎鎮痛剤を服用しながら経過を見ます。下の親知らずの抜歯後に生じるしびれや麻痺については、時間の経過とともに回復するケースがほとんどです。その間は定期的に通院していただきながら、症状の確認や経過を観察します。