「今日も頑張れ 宗谷本線」。JR北海道・宗谷本線のポスターには、そんなメッセージと共に、雷雨などの激しい天候や、クマやシカなどの野生動物が、列車を追いかける姿が描かれている。
このような鉄道の運行を妨げる「困り者」の中に、カメラを構えた人間である「撮り鉄」が含まれているとして、このポスターは、SNS上でたびたび話題にのぼっている。
さぞかし撮り鉄に困っているかと思いきや、現地の村を取材してみると、意外な制作経緯が明らかになった。
●「野生動物と同じ扱い」「撮り鉄が害悪認定されている」
宗谷本線は、旭川駅から稚内駅を結び、北海道北部を縦断するJR北海道の鉄道だ。
その宗谷本線の沿線でのプロモーションのため、ポスターは2021年から掲示されている。
SNSでは、線路上にクマやシカと並んで「撮り鉄」が描かれているとして、話題になることもある。
2021年春には「野生動物と同じ扱いで草」。
そして、2024年7月にも再び「撮り鉄害悪認定されてて草」とポスターがX上で取り上げられて反響があった。
このポスターは「撮り鉄」のモチーフをフックとして、宗谷本線の名前を広めることに成功しているとも言えそうだ。
撮り鉄といえば、列車の撮影のため、線路の敷地内に不法侵入したり、私有地の木々を勝手に切り取ったりするなどの迷惑行為がこれまでも伝えられてきた。
昨年には、JR東日本の寝台特急「カシオペア」を撮影しようとして線路の敷地内に立ち入り、列車を緊急停止させる事案も発生。男性2人が鉄道営業法違反の疑いで書類送検された。
まさしく「迷惑な存在」として、鼻つまみ者になっているわけだ。
このポスターは、宗谷本線が走る音威子府村(おといねっぷむら)、中川町、幌延町の3自治体による「宗谷本線マイレール意識向上事業実行委員会」(現事務局は中川町)が作ったもの。
さぞかし、撮り鉄の被害に悩んでいるのだろうと、ポスターの制作経緯を取材してみると、当時、委員会の事務局があった音威子府村役場は「実は違います」と説明する。
●職員が「ブラックジョークで鉄道オタクを入れてみよう」と企画
村によると、幌延町の広告代理店が大まかなデザインを考え、それを受けた村の職員(当時)が「鉄道オタクの方を入れてみてはどうか」とアイディアを出したという。
弁護士ドットコムニュースの取材に「特に撮り鉄に困っていることはなく、世間でもニュースでも流れていた時代だったので、ちょっとしたブラックジョーク的な感じでアイディアを出したと聞いています」と説明した。
少なくとも音威子府村では、沿線住民から撮り鉄に関して苦情が届けられることはないという。取材に応じた担当者も「宗谷本線では、撮り鉄のみなさんは、私が見ている限りではマナーよく撮影している。線路に出るような人もいない」と話す。
配信: 弁護士ドットコム