パリ五輪・体操女子団体決勝に進んだ日本代表チームは、主将の宮田笙子選手(19歳)を欠いた4人で8位という成績を残した。
宮田選手が飲酒・喫煙を原因として辞退したのは、過去の日本代表の歴史で初めてのこと。国際オリンピック委員会(IOC)は「タバコのない五輪」を打ち出し、喫煙と一線を引く。
開催地のフランスでは、飲酒・喫煙は日本より早い18歳以上から許される。それでも酒・タバコの法規制は段階的に進んできたという。
日仏を行き来するフランスの弁護士資格を持つマージュ パスカル・聡平弁護士は、規制前のゆるい時代の空気感も経験してきた。
フランスにはどのような変化が起きたのか。そして宮田選手への「処分」はどのように受け入れられているのか聞いた。
●【飲酒事情】フランスでは赤ちゃんにも「ワインの英才教育」をほどこす文化
——フランスでは飲酒・喫煙は何歳からOKでしょうか
フランスの成人年齢は18歳です(フランスの民法典414条)。1974年にヨーロッパ各国の動きと合わせて21歳から引き下げられました。諸説ありますが、18歳引き下げによる有権者増で投票率を上げようという政治的な理由もあるとされています。
成人の18歳になれば飲酒・喫煙が可能になります。
——フランスのお酒事情について教えてください
法令上では18歳未満は飲んではいけないとされています。日本と同じく、飲酒した本人への罰則はありませんが、販売側は18歳未満の未成年に売ってしまうと罰則も科されます。
ただ、法令上ではそうなのですが、現実的にはビールとワインのように”アルコール度数が軽い”とされるお酒であれば、一昔前では、バーやブラッスリー(カフェ)でも16歳は飲んでも良いというのが慣例でした。
フランスはヨーロッパ諸国や日・米を含めた先進国が加盟するOECDのアルコール摂取量ランキング(2022年) で6位に入るほど酒を好む民族です。
私はフランス人の父親の都合で、日本に3歳の頃にやってきました。私の親もそうでしたが、フランスの家庭では良いワインやシャンパンを手に入れると、親が小指につけて赤ちゃんの唇につけて舐めさせるような「英才教育」によって、良い酒とは何かを覚えさせようとします。今はわかりませんが、少なくとも30年前はそうでした。
それから何度か日本とフランスを行き来することになりましたが、16歳(高校生)のころには、私もフランスのカフェでビールを平気で注文して飲めていました。
しかし、数年前から公衆衛生法の規制が強くなり、フランス政府は国民の健康増進に力を入れています。とはいえ、特に若者の酒類の摂取量は低くなっていますが、全体的にはまだ飲酒量は多い国です。
何が言いたいかというと、法令上はともかく、文化的にはかなり「未成年飲酒」に寛容なお国柄ということです。
●【喫煙事情】屋内喫煙が規制…生徒が高校の教室で吸っていた時代もあった
——フランスの喫煙事情も教えてください
喫煙も同じで、吸えるのは18歳以上となります。未成年への販売も規制されていますが、15年〜20年前には未成年にも平気で売っていました。
1991年にできたエヴァン法では、16歳未満にタバコを売ってはいけないという規定もありました。この規制は2006年法改正で「18歳未満」に引き上げられ、さらに、それまで許されていた屋内喫煙も一斉に禁じられています。
この規制に対しては施行時にはフランス全体で大きなブーイングがあがったものです。しかし、ブーイングも徐々に収まり、今では店内での禁煙は定着して、喫煙者がバーや飲食店でタバコを吸うには、一度外にでなければいけないことが当たり前になりました。
フランスではカフェにテラスが設置されているところが多いため、テラスでは普通に今でも喫煙ができます。ですので、コーヒーまたはビールなどを飲みながら煙草を吸う習慣は未だに続いており、天気がいい日などはテラスが満席になって煙草の煙だらけになります。
私も高校生の頃には、高校の校舎を出れば普通に外でタバコが吸えました。私より5歳くらい上になると、先輩たちが高校の教室でも堂々とタバコを吸っていました。昔のフランス映画などを見ても、そのようなシーンが残っています。
2006年の法改正を若いころに経験したため、喫煙にはかなりゆるい空気の時代に高校生で生きて、その後の変化も見てきたことになります。だんだんと屋内で吸うと嫌な顔をする人も現れはじめ、だいぶリテラシーやメンタリティーは変容してきました。
配信: 弁護士ドットコム