妊娠や体調面に関する話題を繰り返し振ってくる職場の先輩がつらい──。デリケートな領域にズンズンと踏み込まれたという女性からの相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者が妊娠初期に流産したため有給休暇を取得したところ、先輩社員に「もしかしておめでた?」と尋ねられました。
同じことを繰り返し聞かれないよう正直に流産したことを告げたら、今度は執拗に「休まなくていいのか」と何度も言われるように。問題ないと答えても同じやり取りを繰り返す羽目になり、休暇を強要されているように感じたそうです。
その後、再び妊娠した際には安定期に入るまで報告を控えていましたが、先輩にとって報告の遅さが不服だったのか、ため息を吐かれてしまい、妊娠・出産に伴う業務調整などの相談時にストレスを感じるようになったといいます。
妊娠の有無や体調の変化などデリケートなことを何度も聞かれた相談者は、先輩の振る舞いが「ハラスメント」ではないかと考えているようです。「おめでた?」と聞くだけでも法的な問題になり得るのでしょうか。竹内省吾弁護士に聞きました。
●性に関する話題は受け止め方の個人差が大きい
──今回のようなケースはセクハラに当たるのでしょうか。
この先輩の対応はアウトの可能性が高いです。
職場におけるセクシャルハラスメント(セクハラ)とは、性に関する言動により受け手(労働者)が勤務条件について不利益を受けたり(対価型)、就業環境が害される(環境型)ことをいいます。
今回のケースでは、先輩が妊娠に起因する体調の変化を相談者が休暇を強要されたり先輩の態度により業務調整時にストレスを感じるという環境型のセクハラに該当します。
セクハラに当たるかは、行為者側がどういう意図であったかよりも、受け止める側が不快だと感じるか(平均的な女性(男性)労働者の感じ方)を基準にケースバイケースで判断されます。
その発言が受け手にセクハラと思われる可能性があると思った場合には、別の聞き方を考えた方が良いです。
体調が悪そうな同僚や後輩に対して、身体を心配し、「風邪?」や「二日酔い?」などと声をかけることはよくありますし、そのような職場であって欲しいものですが、性に関する話題は受け止め方の個人差が大きく、またその影響も大きいため、注意が必要です。
また、実際に妊娠していればまだしも、単に太っただけだった場合などは、被害感情はさらに激化することが予想されます。気軽に「おめでた?」と聞くことはあまりにリスクが高い行為であるといえます。
一方で、あまりに体調が悪く業務に支障が出ている場合においては、業務量の調整や業務内容の変更を打診することは「業務上必要な言動」としてセクハラに当たりません。この場合でも一方的な通告にならないように配慮する必要があります。
今回のようなケースにおける対応としては、「おめでた」ありきで話すのではなく、まず体調不良を原因として、休暇や業務量の調整を打診するのが良かったでしょう。
そして、相談者から流産や妊娠のことを打ち明けられた場合には、それを前提として、業務上必要な言動をすることが求められたといえます。
──もしハラスメントに当たる場合、被害者は会社側や加害者側に何を求めることが可能ですか。
まずは、上司や人事担当などに相談し、加害者側の対応を変えてもらうということが考えられます。
あまりにハラスメントがひどい場合などは、加害者側や会社側に対して慰謝料請求をすることもあり得ますが、今回のようなケースでは認められたとしても少額にとどまる可能性が高いです。
──会社側としては、ハラスメント防止のため日頃からどのような点に留意しておくべきでしょうか。
社内でハラスメントが発生した場合に備え、従業員が相談できる担当者や窓口をあらかじめ決めておくとともに、社内で周知しておく必要があります。
ハラスメント問題を適切に対処する体制が整っていないとなると、会社の責任を問われる可能性があります。ハラスメント相談の担当者や部署内におけるプライバシー厳守の徹底も欠かせません。
また、入社時のほか、定期的にハラスメントに関する注意喚起をおこなうなど、未然防止の措置もできていればなお良いと思います。
【取材協力弁護士】
竹内 省吾(たけうち・しょうご)弁護士
慶應大卒。弁護士法人エース代表弁護士。東京銀座を本店に、全国に拠点を構える。労働分野を中心に、一般民事、家事、企業法務など幅広く扱う。著書に「少年事件ハンドブック(青林書院)」など。趣味はラザニア作りと珈琲豆焙煎。
事務所名:弁護士法人エース
事務所URL:https://ace-law.or.jp/
配信: 弁護士ドットコム