●警告メッセージを「定型文のただの脅し」と捉えた
チートに駆り立てたのは、好奇心や承認欲求だった。
「何ができるんだろう」と行為を繰り返し、不正で得られたアイテムを「見せびらかして(他のユーザーから)反応がもらえたことが、うれしかった」という。
まさしくゲーム感覚のようにチートをしていたが、かといって違法行為だったことを認識していなかったわけでは決してない。
チートや指南行為がどのような罪にあたるのか、自分で調べて罰則もわかっていたと話す。
「偽計業務妨害罪などにあたることはわかっていた。ただ、未成年であれば自分がやっている程度ならバレても許されるかなという感じです」
チートツール販売の逮捕事件がニュースになっても、「誰でもできるようなしょうもないチートをして捕まるニュースは見たことがなかった」。自分は平気だという考えが揺らぐことはなかったようだ。
人狼のゲームで不正行為を働くと、アプリ上で「法的措置をとる」「これ以上は裁判をします」など、警告メッセージが表示され、最初は半年ほどチートを控えたが、それも「定型文のただの脅しかな」と割り切って再開した。
親は「やめときな」と注意するにとどまったという。
●「チートは運営の迷惑にならない」→それは完全な誤り
ある朝、家族と暮らす自宅に警察がやってきて、パソコンとスマホが押収されていった。
他のユーザーが不快に感じるようなコメントを連投する「荒らし」のような迷惑行為とは違って、男性は自らのチート不正は「犯罪だが、迷惑にならない個人の娯楽のようなもの」と捉えていた。
しかし、それは完全な誤りだ。
運営会社代理人の中島博之弁護士は、ゲームの不正行為は「民事・刑事でリスクのある行為」と指摘する。
ゲームの不正が横行すれば、真面目に遊んでいるユーザーが離れる。プログラムの改修にも費用がかかる。
「複数の利用者がいるオンラインゲームで、不正行為・迷惑行為(荒らし行為)をおこなえば、楽しいはずのゲーム体験が台無しになってしまい、真っ当にゲームをプレイしている多くの利用者に迷惑が掛かる事態となります」
運営会社は日々、不正行為に目を光らせ、対策に力を入れている。毎月合計約900アカウントを規約違反で停止しているといい、年間にすれば1万アカウント程度を停止していることになる。
「今回のように一線を越えた行為は刑事事件になるだけでなく、民事事件としても損害賠償責任を負うことになります。オンラインゲームでは相手の顔は見えませんが、実際に迷惑する利用者や損害を受ける運営会社が存在することを今回の事件を通じて知っていただき、正しいアプリの利用を心掛けていただければと思います」
男性も、裁判が進められてようやく「反省」の心境に至ることができたと話す。逆に言えば、大事になるまで、どのような事態を招くか想像できない人たちとも、会社は対峙しているのだ。
男性は「ゲームを楽しむのが8、チートは2です」と話す。チートもゲームも純粋に楽しんでいた。
実際に、高校に入ると、真夜中まで人狼に没頭したことで、朝起きられず、「高2の夏から行かなくなり、中退した」。高卒認定を取得して、大学に行こうと考えもしたが、そのための資金がなく、今はフリーターだ。
配信: 弁護士ドットコム