ぎこちないなりに感慨深い
『はたちの青春』の撮影では俳優たちがうがい水を常備するあまり、消毒臭くて仕方ないものだったらしく、ロマンもへったくれもない。アメリカが求めたキスシーンは全然甘い口あたりのものではなかった。
同作よりちょっとロマンティックな映画なら、窓ガラス越し(外では雪!)のキスシーンで有名な『また逢う日まで』(1950年)がある。
田島貴男が歌う「接吻 kiss」の歌詞世界では「長く甘い口づけ」が持続するというのに、戦後の日本では少しずつキスシーンへの耐性をつけ、段階を踏みながら、映画の中でキスを表象していったのだ。
だとするなら、『虎に翼』のぎこちないキスシーンは、当時の撮影環境を踏まえた一種のパロディ的な描写とも理解できる。
寅子と航一がキスをするのは1953年のことだから、GHQによる占領は終了していた。新しい時代の価値観を体現する法律家の二人が唇と唇を重ねるのはぎこちないなりに感慨深い。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu
配信: 女子SPA!
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