末期がんで寝込む妻に離婚迫るモラハラ夫…「妻ががんになったら離婚する」という男性たち

末期がんで寝込む妻に離婚迫るモラハラ夫…「妻ががんになったら離婚する」という男性たち

●離婚事由「回復の見込みがない精神疾患」は民法改正で削除

そもそも、病気が離婚事由になるようなケースはあるのでしょうか。

「離婚を請求される側の病気という事情によって離婚事由が認められて離婚も認められるということはまずないでしょう。

この点、本件のようながんではなく身体的な疾患ではなく、精神疾患にはなりますが従前離婚事由として規定されていた「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」(民法770条1項4号)は、今年5月に公布された民法改正で削除され、2年以内に施行予定となっています。

このような法改正があったという時流や、そもそも、夫婦には相手が病気になったら看病するなどお互いに協力し合う義務(協力義務。民法752条)があることから致しますと、他の特殊な事情でもない限り、相手方の病気が離婚事由として認められるということはまずないと言えるでしょう」

●モラハラパワハラ夫に慰謝料請求したい

では、夫が妻の病気を理由に離婚したいと言ってきた場合、妻は夫に慰謝料を請求できるのでしょうか。

「慰謝料の法的な根拠は不法行為(民法709条、710条)であり、本件でも夫に不法行為が成立しなければ、慰謝料の請求自体はできたとしても裁判所でその請求が認められないことになります。

本件では、末期がんである妻に対し夫が離婚を求めるという酷いことをしているかと思われますが、単に離婚を求めてきたというのみでは不法行為の成立は難しいと思われます」

澤藤弁護士は指摘しながら、次のように説明します。

「他方、それに加え、体調が悪く寝込んでいる妻に対して『働かざるもの食うべからず』、『早く死ね』などの暴言を述べるなどする場合には、回数、頻度、行為態様、妻側が被った損害結果などにもよりますが、夫婦間でのモラルハラスメントやパワーハラスメントとして不法行為が成立する可能性がある程度高いと言えます。

また、先程のとおり、本件では妻が離婚に承諾しない限り夫の離婚請求が裁判で認められることはかなり難しいといえることから、それを前提とした上で離婚協議を行い、その中で、満足できるの慰謝料(実務的には解決金や和解金と表現することが多いと言えます)を夫が支払うことを条件に離婚に応じるという方向で交渉をすることも有効な手法と言えるでしょう」

【取材協力弁護士】
澤藤 亮介(さわふじ・りょうすけ)弁護士
東京弁護士会所属。2003年弁護士登録。2010年に新宿(東京)キーウェスト法律事務所を設立後、離婚、男女問題、相続などを中心に取り扱い、2024年2月から現在の法律事務所でパートナー弁護士として勤務。自身がApple製品全般を好きなこともあり、ITをフル活用し業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。ご相談のご予約は、web上のカレンダーで空き状況をご確認いただきつつweb上で完結することができます。
事務所名:向陽法律事務所
事務所URL:https://www.keywest-law.com

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「専門家を、もっと身近に」を掲げる弁護士ドットコムのニュースメディア。時事的な問題の報道のほか、男女トラブル、離婚、仕事、暮らしのトラブルについてわかりやすい弁護士による解説を掲載しています。
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