●子どもに遺産を相続させない確実な方法はない
——また、男性は元妻との間の子どもたちに、自分の遺産を相続させたくないと考えていますが、可能なのでしょうか。
1つ目として、遺言を作成する方法が考えられます。自身の財産について、再婚相手や、再婚後に子どもが生まれた場合は、その子どもに相続させる内容の遺言を作成しておきます。
もっとも、このような遺言を作成した場合でも、元妻との間の子どもたちには遺留分(法律上認められる最低限の相続分)があります。そのため、元妻との間の子どもたちが遺言の存在を知れば、再婚相手や再婚後の子どもに侵害された遺留分に相当する金銭の請求(「遺留分侵害額請求」といいます)をする可能性があります。
2つ目として、財産を再婚相手や再婚後の子どもに生前贈与し、遺産自体を残さないという方法も考えられます。しかし、この場合でも遺留分が問題になる可能性があります。
法定相続人への生前贈与が扶養義務の範囲を超えるような特別な贈与(いわゆる「特別受益」)と評価されてしまう場合には、相続開始前の10年間にしたものについては、遺留分侵害額請求の対象になります。
また、もし再婚相手や再婚後の子どもが男性の前婚の子の存在を知り、かつ当該贈与が前婚の子どもの遺留分を侵害することを知っていた場合は、10年の期間制限はなく全ての生前贈与が遺留分侵害額請求の対象になってしまいます。
3つめとして、財産を生命保険の掛け金に充て、死亡保険金の受取人を再婚相手や再婚後の子どもにしておく方法も考えられます。この場合、保険金は相続財産には当たりませんので、原則遺留分侵害額請求の対象にはなりません。しかし、特定の相続人のみが保険金を受け取ることにより、相続人間に著しい不公平が生じている場合は、遺留分侵害額請求の対象になる場合もあります。この男性のケースですと、著しい不公平が生じていると評価される可能性が高いでしょう。
したがって、元妻との間の子どもたちに、遺産を相続させない確実な方法はないと思われます。
【取材協力弁護士】
鈴木 菜々子(すずき・ななこ)弁護士
弁護士登録以降、離婚・相続を主とした家事事件に注力。千葉市の弁護士法人とびら法律事務所は、離婚事件については累計5000件以上の相談実績を誇る。法的知識だけではないノウハウの蓄積に基づき、真の問題可決を目指している。また、なるべく裁判所を使わずに迅速に案件を解決することに力を入れている。
事務所名:弁護士法人とびら法律事務所
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配信: 弁護士ドットコム