3、検察審査会による事件審査の流れ
それでは、検察審査会による事件審査はどのように進むのでしょうか。審査の全体像を把握しやすいように、4ステップで簡単に解説します。
(1)審査の開始
先でも説明したように、事件審査は被害者等からの申立て又は検察審査会の職権で開始します。
なお、裁判所が公表している統計「検察審査会の受理件数,議決件数等(平成28年~令和2年)」によれば、平成28年から令和2年までの事件受理総数は1万0726件ですが、そのうち約98%が申立てにより開始されています。
(2)審査会議の実施
審査会議での意見交換では、必要な情報があれば権限で取り寄せられます。
検察庁から取り寄せた事件の記録等を調べるだけでなく、審査申立人や証人を呼んで事情を聞いても構いません(法第37条)。官民の団体に報告を求めたり(法第36条)、あるいは検察官に出席させて意見を述べさせたりすることも可能です(法第35条)。
情報が集まり、審査員それぞれの意見もまとまれば、いよいよ議決に進みます。
事件詳細について理解しにくい点があれば、弁護士の中から「審査補助員」を1人委嘱してフォローしてもらえます。補助員の職務は、事件にかかる法令や証拠に関するかみ砕いた説明や、審査自体に関する法的見地からのアドバイスです(法第39条の2第1項~第3項)。
なお、自由闊達に意見を交わして民意を反映させようとする制度の趣旨上、補助員が審査員の自主的判断を妨げることはありません(法第39条の2第5項)。
(3)議決+結果の通知
議決の決定は、審査員の過半数(6人以上)の投票に基づきます。ただし「起訴相当」の議決をする場合は、検察官に出席させて意見を述べる機会を与えなくてはなりません(法第41条の6第2項)。
なお、決定した議決に関しては通知義務が生じます。まず理由を附した議決書を作成し、これを検事正および検察官適格審査会に送付しなければなりません。その上で、議決の要旨を検察審査会事務局の掲示板に7日間掲示する必要があります(法第40条)。このとき、議決の内容が「起訴議決」である場合、検察審査会の所在地を管轄する地方裁判所にも送付しなければなりません(法第41条の7第3項本文)。
(4)再審査
「起訴相当」の議決に対して、検察官が不起訴処分とした旨の通知があったときは、再度審査します。一定期間内に処分の通知がなかった場合も同様です(法第41条の2)。
そして、再審査で11人中8人の賛成で2回目の「起訴相当」が出た場合には、先で紹介した「起訴議決制度」により強制的に公訴提起されます。この場合、もはや手続きを検察官に任せることはなく、地方裁判所指定の弁護士が提訴することになります(法第41条の6・第41条の9・第41条の10)。
4、検察審査員になれる人とは
審査は選挙権を有する一般国民が行うと解説したように、検察審査員に特別な資格は不要です。
誰にでも、望むと望まざるにかかわらず、国民として検察制度の適正運用に関わる可能性があるのです。審査員の資格について、以下でもう少し詳しく確認してみましょう。
(1)審査員の資格
検察審査員となる資格は、衆議院議員の選挙権を有する人全てに及びます(法第4条)。
ただし、制度の適正運用のため、次のような例外があります。
(2)審査員になれない人
審査が不公正になる恐れのある職業や、審査対象の事件に関与している人は、当然ながら検察審査員の選定から排除されます。法律で欠格または除斥の対象として挙げられているのは、主に以下の5つです。
義務教育を終了していない人(法第5条1号):ただし、義務教育を終了した者と同等以上の学識を有する人は対象となります。
1年の懲役または禁錮以上の刑に処せられた人(法第5条2号)
公務員の一部(法第6条3号~11号):裁判官、検察官、会計検査院検査官、裁判所職員※、法務省職員※、警察関係者※、自衛官、都道府県知事、市区町村の長
※非常勤は除く
士業等(法第6条12号~13号):弁護士(外国法事務弁護士含む。)、弁理士、公証人、司法書士
事件関係者(法第7条各号):その事件の被疑者、犯罪被害者とその身内(親族・従業員・同居人・法定代理人・後見監督人等)、告発者、証人、鑑定人、被疑者の代理人または弁護士、捜査関係者
(3)審査員の選ばれ方
検察審査員は志願制ではなく、管轄区域ごとに選挙管理委員会によるくじ引きで選定されます(法第4条・第10条)。
具体的な手順としては、まず毎年9月1日までに区域ごとに審査員候補者の数が割り当てられます(法第9条)。これを受けてくじ引きが開始され、その結果に沿って「検察審査員候補者名簿」が作成されます(法第10条)。これにより、1つの検察審査会で400人(群ごとにそれぞれ100人)が候補者となります。
この時点では、当該名簿に載ったからと言って、必ず検察審査員としての職務を開始できるわけではありません。検察審査会事務局長が質問票を配る等して、個々の事情を汲み、欠格・除斥の対象者と辞退者を除いた残りの予定者が「候補者」となるのです。
その後、その「候補者」の中から、任期開始の約1か月前頃までに、検察審査員及び補充員がくじで選ばれます(法第13条)。選ばれると、検察審査会事務局から対象者に対して、選ばれた旨の通知と検察審査会議の招集状が送付されことになります。
(4)審査員の任期
検察審査員の任期は、6か月間です(法第14条)。必要に応じて選ばれる補充員の任期も同じです。
なお、任期決定の実務では、法律に従い候補者を4グループに分けた上で、その半数を3か月ずつ入れ替える運用が採られています。検察審査会の顔ぶれの半数を3か月ごとに入れ替え、議決に集団心理が働かないようにするためです。
配信: LEGAL MALL