私が感じた無力感、そのとき看護師が
肺の機能が落ち、痰が詰まる父。看護師が頻繁にやって来て酸素マスクを外しておこなう吸引は、呼吸の弱くなっている父にはかなり苦しいようで、のけぞってあえぐ姿は見るのもつらいものでした。
処置の邪魔にならないように部屋の隅に立ち、私は自分の無力を感じていました。「まじめでやさしい父がこの年齢になって、どうしてこんなに苦しまないといけないの? ラクにしてあげたいのに、私には何もできない!」。やるせない思いで手を伸ばし、父の足をさすっていると、ベテラン看護師が声を掛けてくれました。
「ご家族がいらっしゃるだけで心強いものですよ。○○さん、よかったですね、娘さん遠くから来られて」。痰の吸引後でぐったりとした父に反応はありませんでしたが、看護師の言葉は私の心に沁みました。
そういえば痰の吸引後、どの看護師も毎回「吸引つらかったね、○○さん。よく頑張ってくれましたね、ありがとうね」と、反応のない父に、家族でもないのに、本当にやさしく話し掛けていました。
「あぁ、無力だとばかり思い詰めていては父も私も救われない。父の気持ちが安らぐような言葉を掛けよう」と思い直しました。娘の私こそが、今のうちに、間に合ううちに。
まとめ
父の容態の急変に駆けつけたものの、父をラクにしてあげられない私。無力感に襲われたものの、病室での看護の様子や言葉掛けに心を動かされました。父のために私ができることは、まだあるはず。父が娘の私に望むだろうと考え、普段通りの明るい元気な声で話し掛け続けました。
数日後、父はひとまず危機を脱出。ぼんやりと目を開けた父が、かすれ声で私の名をつぶやいたのがわかりました。「まだあといくらか父との時間があるらしい、よかった」とうれしく思いました。とりあえず安定した父を見届け遠方に戻りました。入院中の父に手紙を書いたり、父が昔よく聞いていた歌を電話越しに聞かせたり、以前よりも父と関わる時間を取るようにしています。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
著者:牧野あさ美/女性・主婦
イラスト/おんたま
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2024年6月)
著者/シニアカレンダー編集部
「人生100年時代」を、自分らしく元気に過ごしたいと願うシニア世代に有益な情報を提供していきます!
配信: 介護カレンダー