舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」主演・平方元基に聞く、ハリー役を演じる喜びと重圧

世界的大ヒット作の19年後を描き、あの魔法世界に憧れたファンの心を魅了している舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』。東京・赤坂の赤坂ACTシアターで上演3年目を迎えた本作でWキャストの一人として主演のハリー・ポッター役を演じているのが、俳優の平方元基さんです。ここでは8月19日に行われた合同取材会でハリー役デビューから1か月を迎えた平方さんに今の心境を直撃。8月9日に総観客数100万人を突破し、ますます人気が加速する“舞台ハリポタ”のお話をたっぷり伺いました。

ハリー役決まり「マズいことになった」

――ハリー役が決まる前からロンドンや東京で本作を観劇されていたそうですが、出演される前はこの作品にどんな印象をお持ちでしたか?

ちょうどイギリスを旅行していた時にロンドンでの初公演を観る機会があって、その時は「あのハリー・ポッターが、こんな風に舞台になるんだ」と、演劇の力の凄さを感じました。また、その頃はまだ日本での公演は決まっていなかったと思いますが、「もしも、この作品が日本に来たらどうなるんだろう?」って考えたのを覚えています。当時は日本人キャストで演じられる景色をまったく想像できなかったのですが、この劇場で初めて上演されたのを観た時に「世界で上演されているものが日本でもできるんだ」って、日本の演劇界の底力を見せつけられました。

――その頃はまだ、ご自身が演じることになるとは思っていなかったと思いますが、ハリー役に決まった時の感想は?

嬉しい気持ちとマズいことになったという気持ちの両方がありました(笑)。僕の前にハリー役を演じた方から、すごく大変だったという話を聞いていたので、これはとんでもないことになったと思いましたね。ただ、もともと僕のことを知らない海外の演出家の方とゼロから作品を作り上げていく経験は良い経験になると感じていたので、稽古を始めてすぐに、大人になったハリーを演じることが楽しくなりました。

――約2か月間にわたる稽古の中で、作品に対する印象は変わりましたか?

最初に台本を読んだ時は簡単なト書きしかなくて、どう演じるべきか迷うところもありました。でも、それを頭に入れつつ周りとディスカッションを重ねながら進めていく中、文字で書かれていたものがだんだんと3次元になって浮かび上がって、各キャラクターのセリフが温度を持つうちに、観客の一人として見ていた時に抱いた感想よりもずっと、大人の物語が描かれた作品なのだと見方が変わってきました。

平方さんが思う、少年ハリーと大人ハリーの違いは?

――キャストやスタッフの方々など、カンパニーの雰囲気はいかがでしょうか?

今年で3年目の作品ですから、関係者みんなに高いプロ意識とお互いへのリスペクトを感じます。毎日ヘトヘトになるまで稽古をしながら、その合間に他のキャストの方々と会話をする時間も非常に貴重でしたし、そういう中で生まれた良い雰囲気が舞台上にも表れていると思います。その上で、1年目、2年目とこの作品を紡いでくださった先輩方の思いも胸にしながら、3年目の僕たちにしか出せない色もお見せできたらと思ってがんばっています。

――稽古ではWキャストで同じ役を演じる吉沢悠さんと一緒にいる時間が長かったと思います。お二人の間では、どんな関係が築けていますか?

確かに稽古中は誰よりも一緒にいましたし、今も毎日連絡を取り合っていてお互いを励ましあっています。吉沢さんがいてくださったからこそ、自分の演じるハリーはこうでいいんだと思えたこともたくさんありましたし、彼がいなかったら今の僕のハリー役は成立できていなかったでしょう。演出の方が求めるハリー像に対して、二人で同じ方向を向いて歩めたのは印象的な思い出ですし、一度もライバル心のようなものを抱くことなく進んでこられたのは、自分の中で不思議な体験でもありました。

――平方さんが本作で演じられているハリーは、父親になった37歳のハリー・ポッターです。鑑賞される方の中には、小説や映画に描かれる少年像を抱いたまま見始める方もいらっしゃると思いますが、子どものハリーと大人のハリーの違いはどんなところにあると思いますか?

僕は映画からハリー・ポッターの世界に入ったのですが、改めて小説で話を振り返ってみると、ハリーという少年が子どもながら人間的にいろいろと“こじらせている”ことが多い人物であることを知りました。そこには暗いシーンもたくさんあって、映画で感じるよりも大人びた文学だったんです。小説の19年後を描いたこの舞台は、そういうダークな部分をより大事にして作られている印象で、ヒーロー的な少年が魔法で悪を打ち倒すだけではない、ハリーというキャラクターの別の側面が色濃く描かれているところがひとつのポイントだと思います。

――演技以外の面で、平方さんが本作の凄みと感じる部分はどこでしょう?

挙げればきりがないですけど、個人的に推したいのは証明ですね。見せるための照明が素晴らしいのは当然ですが、この作品は“見せないための照明”や“消すための照明”も凄いんです。照明担当の方が舞台袖から上演中ずっとキューを出し続けていて、それが止まってしまったら話が何も進まないくらいほど緻密なプランが組まれているので、ぜひ、そういうところにも注目してほしいです。

バトンをつなぐ思い、重圧、責任

――ハリー役のデビューから1か月が経ちました。お客様の反響に対する感想は?

本当にたくさんのお客様に観ていただけていることが率直に嬉しいです。特に今は夏休み中ということで、小さなお子様を連れて観に来てくださる方が多くて。日本だと上演中に観客席から笑い声が聞こえてくることってあまり無いのですが、この作品はハリーたちを応援する子どもたちが僕らのセリフに答えてくれたり(笑)、お客様の反応がこちらにビシビシと伝わってきて、まるでブロードウェイやウエストエンドで演じているかのような新鮮な気分を味わっています。そうした生の反応を得て舞台上の雰囲気が変わる面もあるので、その日の公演ごとに異なる色合いを楽しんでいます。

――それでは最後に、今後も4年目、5年目とロングラン上演が予想される中で、本作の歴史をつないでいくことにどんな意義を感じていますか?

1年目から2年目、2年目から3年目と少しずつキャストが入れ替わっていく中でも、これまでの積み上げを大切にしていこうという意識を一人一人に感じます。僕自身もこうした大役をいただいて、これまで演じられてきた方々の思いを受け継ぎつつ、そこには重圧もあったりしますが、それをまた次へとつなぐ責任と受け止め、みんなでバトンをつないでいければと思っています。

舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』は、東京・赤坂の赤坂ACTシアターで上演中。平方さん演じる“19年後のハリー”を観に、ぜひ劇場へ。