「そんな正論、聞きたくない!」娘が40℃発熱でも病院に連れて行かずキレる“自然派”妻。極端なオーガニックにハマった末路とは

「そんな正論、聞きたくない!」娘が40℃発熱でも病院に連れて行かずキレる“自然派”妻。極端なオーガニックにハマった末路とは

―連載「沼の話を聞いてみた」―

堀ダイスケさん(仮名・40代)は、都内に暮らす3児の父だ。現在子どもは全員小学生だが、会社員であるダイスケさんが、ほぼワンオペで家庭を回している。

妻は仕事と推し活に全振りで、家族と過ごす時間を放棄しているのだ。


なぜこうなったのか? ダイスケさんは長女誕生からをふりかえる。

長女が生まれたのは、約10年前。当時専業主婦だった妻は“昔ながらのもの”を大切にして、家事育児に取り組んできた。ダイスケさんもそこに異存はなく、水中出産に立ち合い感動したり、一緒に布おむつを洗ったりと、充実感を覚える日々を送っていた。

「こんなにていねいに子どもを育ててくれて、ありがたい。妻が昔ながらの自然なやり方を選ぶのは、すごい考えてくれたからなんだろうな。当時もいまも、その気持ちは変わっていません」

最初の違和感は砂糖玉

しかし自治体の育児講座で知り合ったママ友との付き合いで、そうした育児方針が極端になっていき、家庭内に不穏な空気が立ち込めていく……。

「夫婦でいちばん揉めたのは、ホメオパシーです。いつの間にか、レメディが入ったビンのセットが家にあったんですよね。はじめて見たとき、医薬品ともサプリとも違う雰囲気の小さな粒に、なんだこりゃ? と思ったのを覚えています」

ダイスケさん同様に、“なんだそりゃ?”となる方もいるだろうか。


ホメオパシーとは、「ある症状を引き起こす物質を薄めると薬になる」という考えが軸になっている民間療法で、レメディはそれに使われる薬のことだ。

とは言っても“医薬品”ではない。植物や動物組織、鉱物などを水で100倍希釈して振盪(しんとう=激しく揺り動かす)するといった作業をくり返して作った液体を、砂糖玉に浸み込ませたもの……要は砂糖玉である。

一般的な科学では、そこまで希釈したら元の物質はほぼ含まれていないと考えるのが妥当だが、ホメオパシー理論では「物質は薄めれば薄めるほど効果が高い」という話になっている。

直接の害はない、でも…

医薬品と違い副作用がない、という点をメリットと考える人もいるが、日本医学会のHPには「ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています」と記載されている。何をよしとするかは、個々の選択だろう。

しかし医療事故を知ると、軽視はできない。有名なのは、2009年の「山口新生児ビタミンK欠乏性出血症死亡事故」。助産師の指導のもと、ビタミンKを投与せずにビタミンKと同様の効果を持つと主張されるレメディ(砂糖玉)を新生児に与え、結果生後2カ月で硬膜下血腫が原因で死亡したのだ。


ダイスケさんは当時、ネットで軽く調べて「砂糖玉」という認識でいた。

「だから体に害はないだろう、とスルーしていたんですよね。ビンに気づいてから妻の様子を見ていると、咳がつづいたら、お腹が下ったら、いわゆる薬を使うタイミングで、子どもにレメディを与えているのがたびたび確認できました」

ところがある日、長女が高熱を出した。1歳のときである。

熱が40度近くまであがり、ぐったりしている。しばらく様子を見ていたが、もう病院へ連れていくべきだとダイスケさんは判断。しかし、妻がそれを拒否した。レメディを与えていれば、問題ないと主張する。

「つらそうにしている娘が心配で、とにかく一度診察を受けさせたいと必死で説得したんですよね。様子を見るタイミングは過ぎている。お願いだから、病院に連れていかせてくれと」


すると、落ち着いた様子で看病していた妻が突然、激昂した。

「うっるさああああーーいいぃ! そんな正論、聞きたくない!! 私を否定しないで!!!」

ホメオパシーで、心の平穏を取り戻す必要がありそうである。

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