前歴のデメリットとは?前科との違いやデメリットを回避する方法

前歴のデメリットとは?前科との違いやデメリットを回避する方法

前歴は「捜査対象になった経歴」を意味するだけなので、「前歴があること」と「過去に罪を犯したこと」とは同義ではありません。

「前科」と前歴は似ているようで実はまったく別の用語なのです。

そこで今回は、

前歴と前科・逮捕歴との違い
前歴がつくデメリット
前歴や前科を回避する方法

などについて、分かりやすく解説します。

1、デメリットを知る前に~前歴についての基礎知識

前歴のデメリットを理解するには、前提知識の整理が不可欠です。

まずは、前歴が意味する内容や前歴がつく具体例と合わせて、前歴と近接した概念である前科・逮捕歴との違いを解説します。

(1)前歴とは

前歴とは、警察・検察などの捜査機関による捜査対象になった履歴のことです。

逮捕されたか否か、起訴処分を下されたか否か、有罪判決を言い渡されたか否かなどは関係なく、刑事手続き上の捜査の対象になっただけで前歴は残ります。

なお、前歴は法律用語ではなく一般用語に過ぎないので、論者によっては、前歴を「逮捕された経歴」と限定的に解することもあります。

(2)前科との違い

前科とは、有罪判決を受けた経歴のことです。懲役刑・禁錮刑(改正刑法施行後は拘禁刑)・罰金刑・科料などの判決が確定した場合だけではなく、執行猶予付き判決が下されたケースでも有罪であることに変わりはないので前科がつきます。

判決と同一の効力を有する略式命令(刑事訴訟法470条)や交通事件の即決裁判による場合でも同様に前科がつきます。

つまり、前科があると前歴はかならずついていますが、前歴がついているからといって前科があるとは限らないということです。

たとえば、電車内で痴漢行為に及んだために迷惑防止条例違反で現行犯逮捕されたが、初犯であり、被害者との間で示談が成立したために、不起訴処分が下された場面について考えてみましょう。

このケースでは、現行犯逮捕されて警察・検察において被疑者として一定の取り調べを受けているため、前歴は必ずつきます。

しかし、検察官による起訴・不起訴の判断がされる前に示談金の支払いが済んでいるため不起訴処分を獲得できており、起訴されることはなく有罪判決は言い渡されていませんので前科はつきません。

前科・前歴はいっけんよく似た用語に誤解されがちですが、まったく別の事象を指すと言えます。

なお、少年事件を起こして逮捕された場合には、逆送致(検察官送致)事件以外のすべてで前歴が残るだけです。なぜなら、逆送致事件以外の少年事件では成人の場合と同じように刑事裁判を受けたり有罪判決を下されたりすることが制度上ないからです。

逆送致事件以外の少年事件の場合には、保護観察のような保護処分が付されたり、教育的措置によって何らその後の負担がなく終わることもあります。ただこれらも、前歴ではあります。

(3)逮捕歴との違い

逮捕歴とは、捜査機関に逮捕された経歴のことです。

たとえば、窃盗の現場で現行犯逮捕された場合には、逮捕歴・前歴のどちらもつきます。

これに対して、窃盗の嫌疑をかけられて任意の取り調べを受けたが、嫌疑不十分で逮捕に至らなかった場合には、前歴は残るものの逮捕歴はつきません。

したがって、逮捕歴と前歴は一部重複することがありますが、基本的には別の概念を指すと言えます。

(4)前歴がつくケース

以下のように、前歴は「警察や検察の捜査対象になった経歴」を幅広く内包する概念です。

被疑者として逮捕・勾留されたとき
犯罪の嫌疑をかけられて任意聴取を求められたが逮捕には至らなかったとき
検察庁で嫌疑なし・嫌疑不十分として不起訴処分とされたとき
検察庁で起訴猶予として不起訴処分とされたとき
警察で微罪処分になったとき
誤認逮捕されたとき
被告人として刑事裁判で有罪判決を言い渡されたとき(前科も付きます)

このように、前歴は「本当に何もしていないのに捜査対象になったとき」にも残る可能性があるものです。

したがって、前科と違って、前歴だけがついたからといって大きなデメリットが生じるのではないかと、過度に不安になる必要はないでしょう。

2、前歴のデメリット

どのような刑事手続きを経るかにかかわらず、捜査対象となると前歴は残ります。そのため、前科ほどのデメリットが生じるわけではありません。

ただし、一般的な生活を送っていると前歴がつくことも珍しいわけですから、前歴が残ると以下のようなデメリットが生じるのもやむを得ないと考えられます。

捜査機関に前歴の記録が保管され続ける
インターネット上に情報が残って実生活への支障が生じ得る

(1)捜査機関に記録が残る

前歴のデータは以下の記録簿に保管され続けます。

検察庁の「犯歴記録」
警察庁の「前歴簿」

もちろん、犯歴記録・前歴簿は捜査機関以外の第三者ではアクセスできません。

ただし、その後の社会生活のなかで何かしらの罪を犯してしまったときには、犯歴記録や前歴簿への照会によって前歴が捜査機関に明らかになるので、心証が悪くなり、量刑に影響が出る可能性は否定できないでしょう。

もっとも、前歴は判決手続を経ていないことから、前科の犯罪事実とは質・量ともに異なるため、前科ほど刑の加重要素とはならないと考えられます。

(2)インターネット上に情報が残ることがある

前歴がつく経緯次第では、事件などが大々的に報道されてインターネット上などに情報が残り続ける危険性があります。

インターネット上の情報は管理人などが削除しない限り未来永劫、誰でもアクセスできる状態に置かれるので、氏名検索や簡単な身辺調査が実施されるだけで前歴がついた原因の事件が発覚しかねません。

たとえば、給付金詐欺の容疑をかけられたことが氏名・顔写真付きで報道されたが、その後の刑事手続きを適切に進めたために逮捕には至らず逮捕歴・前科がついていないケースでも、当初のニュースソースやまとめ記事が残ってしまうと実生活上のデメリットが生じかねないでしょう。

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