5、前歴は消える?
検察庁や警察で保管されている前歴データが消えるのは本人が死亡したときだけです。つまり、前歴は生きている限りは消えないということです。
これに対して、前科の根拠となる有罪判決は一定期間の経過によって効力を失います。
有罪判決の効力が消滅するタイミングは刑罰の内容ごとに以下のように定められています(刑法第27条、刑法第34条の2第1項)。
刑の言い渡しの効力がなくなると、法律上の前科は法的な効力を持たなくなり、履歴書の賞罰欄への記入義務もなくなります。
ただし、前科そのものの記録は検察庁や警察で保管され続けるため、前歴としての前科はそのまま残り、量刑上の考慮対象などにはなります。
有罪判決の効力が失われる時期
執行猶予付き判決:罪を犯さずに執行猶予期間を満了したとき
禁錮刑以上の有罪判決:刑の執行が終わった後、罰金刑以上の刑に処せられないで10年が経過したとき
罰金刑以下の有罪判決:刑の執行が終わった後、罰金刑以上の刑に処せられないで5年が経過したとき
6、前歴がつくのはやむを得ないケースも!前科を回避することが重要
前歴は捜査対象になった時点でついてしまうので、たとえば誤認逮捕されたときのように、何の罪も犯していない状況でも前歴が残ることがあります。
その意味では、前歴がつくのはやむを得ない場合もあります。
ただし、ここまで紹介したように、前歴によるデメリットは大きなものではありません。
そのため、「前歴がつかないためにはどうすれば良いのか」を考える実益は小さいとも言えます。
そこで、何らかの罪を犯して捜査機関の追及を受ける可能性がある場合や、すでに逮捕されて警察・検察における取り調べを受けているときには、「前科がつかないようにどうすれば良いか」を優先的に検討するべきでしょう。
(1)前歴を回避する方法
「前歴がつくのは仕方ないケースがある」「前歴のデメリットは小さい」とは言え、捜査機関に前歴情報が残り続けるのは気持ちの良いものではないでしょう。
誤認逮捕のような例外的なケースを除き、自ら罪を犯した場合において前歴が残ることさえも回避したいのであれば、捜査機関に犯罪行為が発覚する前に被害者との間で示談を成立させて、刑事告訴をしないように穏便に事件解決を目指すしか方法は残されていません。
たとえば、職場での盗撮行為がバレたときには、被害者や会社との間ですみやかに話し合いの場を設けて、和解契約の締結や通報しない旨の確約、懲戒処分の減免などを願い出るべきでしょう。
これによって被害者側の納得を引き出せれば、警察に犯行がバレる前に円満解決を目指せます。
ただし、このような前歴回避法が効力を発するのは、犯罪自体が比較的軽微であり、かつ、被害者が存在する犯罪類型の場合に限られる点に注意が必要です。
つまり、事後的に捜査機関に事件が発覚しても、「すでに当事者間で話し合いが済んでいるなら、今さら刑事処分を下す必要はない」と判断される状況でなければいけないということです。
たとえば、強盗罪のような重い罪を犯した場合、たとえ被害者との間で示談が成立したとしても、犯罪行為の重大性を理由に捜査が開始するのは避けられないでしょう。
また、薬物犯罪のような被害者のいない犯罪は論理的に示談交渉が不可能なので、警察にバレる前に穏便に解決することも困難です。
(2)前科を回避する方法
無実のケースと実際に罪を犯したケースで、前科を回避する方法は異なります。
①無実の場合
「無実の罪で前科がつくことはない」と油断してはいけません。
なぜなら、誤認逮捕は稀に起こり得ることですし、誤認逮捕されたまま適切な防御策を講じなければ、捜査機関の思い描いた通りに刑事手続きが進行し、有罪判決が言い渡されて冤罪被害を受ける危険性があるからです。
そこで、無実なのに捜査が及んでいる場合や誤認逮捕されてしまったときには、罪を犯していない証拠や供述を収集して、誤認逮捕であることを粘り強く説明する必要があります。
たとえば、アリバイを証明できる映像記録や証人を見つけてくる、自分に不利になるような供述調書にはサインしないなどの対処法が考えられるでしょう。
②罪を犯した場合
「罪を犯したことに間違いはないが前科がつくのは避けたい」という状況であれば、検察官に起訴される前に以下の対処法に踏み出すのが賢明でしょう。
被害者との間で早期に示談を成立させる、和解金を支払う
取り調べでは犯行に至った経緯などを丁寧に伝えて反省の姿勢を示す
更生の可能性を証明できる具体的な材料を提示する(家族との同居、カウンセリングの受講など)
もちろん、重い犯罪や再犯の場合にはこれらの対処法を尽くしても起訴されて有罪判決が出て、前科がつくことが考えられますが、比較的軽微な犯罪で初犯であれば、これらの防御活動は前科回避に役立つでしょう。
配信: LEGAL MALL