校則は、学生の自由を何でも制限できるものではありません。今回取り上げるツーブロックの髪型を禁止する校則も、その厳格さの程度などによっては違法となる可能性もあるのです。
今回は、
学生の皆さんの自由を縛る校則にどのように対処すればいいのか
などについて解説していきます。
1、ツーブロック禁止!?イマドキ中学生男子の髪型に関する校則規制
校則では、昔から、生徒の髪型に対する制約がなされてきました。今でも、ツーブロック禁止のみならず、様々な規制がなされています。
本項では、今時の髪型校則の実情についてみていきたいと思います。
(1)ツーブロック等の髪型を規制する学校の割合
現在、ツーブロックを禁止する校則のためにツーブロックにしたくてもできない、あるいは、ツーブロックにしたら先生に注意されてしまったというケースが報告されていますが、髪型を規制する学校の割合は、実際どのくらいあるのでしょうか?
校則では、ツーブロック禁止の他にも、
黒髪を強制する(地毛が茶色の人に「地毛証明書」なるものの提出を強要する)
ポニーテールを禁止
一度登録した髪型は卒業時まで変えてはならない
などというものも学校によってはあるようです。
この点、日本共産党が東京都内の高等学校の校則を調査したところ、ツーブロックや他の髪型を含め生徒の髪型について何らかの規制をする校則は、約80%を超える割合の学校で存在しているとのことです。つまり、ほとんどの学校で、髪型を規制する校則が存在することになります。
(2)髪型規制の校則については議会・国会でも議論が重ねられるべき課題
上記のとおり、ツーブロック禁止の校則については都議会で問題になったものです。
2020年3月に開かれた東京都予算特別委員会での都議から教育委員会教育長に対し、以下のやり取りがありました。
都議:校則を見ていると、ツーブロック禁止という校則は一定数あります。ツーブロックは、かなり広い定義の髪型として今、定着していると考えます。 それを全体として禁止していることについて、何で禁止をされているのかという声がたくさん寄せられています。実際に、そのことによって指導を受けている生徒もいらっしゃいます。なぜ、ツーブロックはだめなんでしょうか。
教育長:校則は、生徒が健全な学校生活を営み、よりよく成長していくことができるよう、必要かつ合理的な範囲で定められた学習上、生活上の規律でございます。
その理由といたしましては、外見等が原因で事件や事故に遭うケースなどがございますため、生徒を守る趣旨から定めているものでございます。
今回のことが発端となって、今後も各都道府県の議会や教育委員会内部でも、ツーブロック禁止等の頭髪規制の校則の在り方について議論されていくことになるでしょう。
また、2019年には、茶色い地毛を黒く染めさせるなど理不尽な「ブラック校則」を学校からなくそうと活動するプロジェクトの発起人らが約6万人の賛同者の署名を集め、ブラック校則の改善を求める要望書を文部科学省に提出しており、国会でも議論が重ねられていくことになるでしょう。
2、校則による規制はなんでもアリではない
学生の皆さんは、「校則だから・・・」と校則違反となることはしないよう諦めてしまうことが一般的だと思います。もっとも、校則は、生徒の権利を制約し得るものですから、本来その内容はとても慎重に検討されなければなりません。
しかし、先にも見たように、中には「なんでこんな校則を守らないとダメなの?」という変な校則もあります。とはいっても、どんな規制なら良くて、どんな規制だとダメなのか、その基準を明確に理解している人は少ないでしょう。
本項では、校則による規制の根拠を知り、その規制は守るべきものなのかどうかを判断するために必要な要素を解説していきます。
(1)校則に従うべき根拠とは?
実は、法律的には、生徒が校則に従わなければならないというはっきりとした根拠自体はありません。
校則による規制を正当化させる考えとして、生徒が入学することで、学校と生徒との間で契約が成立していて、その契約内容に校則に従うべき義務が含まれるという考え方や(在学契約説)、生徒が入学したことにより生徒は一般社会から離れて学校という部分社会に属することになり、その部分社会においては学校には学校社会を維持するためにある程度の裁量が認められて、その裁量の範囲内ならば生徒の自由を制限できるという考え方(部分社会論)があります。
こうした在学契約説や部分社会論を根拠として、生徒は校則によってある程度の自由を制約されてもやむを得ない、生徒は校則に従うべきだという説明がなされています。
(2)校則には「人権」制限がつきもの
しかし、校則は生徒の自由を制約し得るものです。
生徒の皆さんは、当然、人間であり、日本においては、日本国憲法により様々な自由が人権として保障されています。
ツーブロック禁止等の髪型を規制する校則で言えば、端的には生徒の「髪型の自由」を制約することになります。「髪型の自由」は、憲法上は、髪型は自己表現の一つであり憲法21条の「表現の自由」に含まれる、あるいは、髪型をどのようにするかは自身の幸福追求につながるもので人格的生存に不可欠であるとして、憲法13条の「幸福追求権」によって保障されると考えられます。
つまり、髪型を規制する校則は、学校側の校則を定める裁量権と、それによって制約される生徒の人権とが衝突する場面なのです。
学校側にある裁量権は、無限定なわけではありません。学校が定める校則は、本来的には生徒を保護するため、生徒の健全な育成のためにあるべきものですから、学校側の裁量権は、生徒を保護するために必要最小限の範囲内においてのみ認められるものです。
校則と生徒の人権との衝突については、過去にも、様々な形で争われてきました。髪型のみならず、様々な校則が生徒の権利を侵害しているとして裁判所で争われてきています。
(3)校則の合法性を巡る過去の裁判例
服装、身だしなみに関して、①男子中学生丸刈り事件(熊本地裁昭和60年11月13日判決)というものがあります。校則で「丸刈り、長髪禁止」と定められていた男子中学生が、学校を相手にして、その校則の無効を求めた裁判です。
また、同様の事件として②中学丸刈り校則事件(神戸地裁平成6年4月27日判決、大阪高裁平成4年10月30日判決、最高裁平成8年2月22日判決)があります。これは、丸刈り校則がある中学校に進学予定の小学生が同校則の無効であることの確認を求めて起こした裁判です。
これらの裁判は、いずれも判決としては校則の是非という中身の判断をせずに、形式的な理由で、中学生、小学生側の主張を認めませんでした。しかし、「丸刈り、長髪禁止」とする校則の是非について社会的問題となり、こうした事件を契機に全国各学校の校則が見直され、こうした「丸刈りを強制する」校則は減っていきました。
次に、③中学生標準服着用義務違反事件(京都地裁昭和61年7月10日判決)があります。
これは、中学校に在学する女子中学生が、制服着用を義務付ける校則が違法で無効だとして起こした裁判です。この事件においても、裁判所は校則の是非という中身の判断をせずに女子中学生の訴えを退けました。
こうした裁判例からいえることは、裁判所は校則の是非についての判断を回避する傾向にあるということです。
しかし、このような裁判所の姿勢に対しては、学会等で疑問が呈され、裁判所が校則と生徒の人権との利益対立についてもっと踏み込んで判断していくべきだという議論がなされています。
また、丸刈り事件のようにマスコミに取り上げられるなどして社会問題化すれば、教育委員会を含めた学校自身による校則の見直しを促すという効果もありますので、裁判を起こすということ自体に社会的な意義があると言えます。
配信: LEGAL MALL