3、訴訟を起こすことのメリット・デメリット
訴訟はトラブルを確実に解決できる最後の選択肢ですが、代償として手間と費用がかかります。
簡単に「訴訟を起こす」等とは言わず、状況とメリット・デメリットを整理して、自分(=原告/訴訟を起こす側)が今一番望むことをはっきりとさせることが大事です。
(1)メリット
訴訟のメリットを一言でまとめるなら、法律トラブルについて「実効性のある終局的な判断」を下してもらえることです。勝つ見込みがあるケースに限って言えば、利点として次の4つが挙げられます。
① 最終決着が図れる
民事訴訟の判決が確定すると、問題を蒸し返して「他にこうすべき」等と主張することはできなくなります。また、給付義務(お金の返済等)の場合、確定判決が債務名義となって強制的な回収が図れることは既に説明したとおりです。
②債務や給付義務の迅速な履行が期待できる
実際の民事訴訟で、相手が強制執行まで要求を無視し続けるケースはそれほど多くありません。訴訟手続の中で原告側有利と見るや、相手側が和解協議に応じる姿勢を見せる可能性が大きいのです。これは、相手が自分で調べたり、相手方の弁護士が訴訟の見通しを説明したりすることによる効果です。
③提起した側に有利な結論が出る可能性がある
法律トラブル全般に言えることですが、訴訟を起こす側は、主張・立証のための時間をより多く確保できる等の点で訴訟を起こされる側よりも有利になります。トラブルの当事者としていち早く訴訟を提起した場合は、その後のスケジュールがある程度固定され、相手に自分を正当化する猶予を与えないという点でより有利です。
④遅延損害金等が加算される可能性もある
民事訴訟の判決では、遅延損害金や付加金、さらには弁護士費用も上乗せされて支払いが命じられる可能性があります。なお、裁判外で当事者同士話し合う場合は、ほとんどの場合相手に資力がないこともあり、上記金額に関しては譲歩せざるを得ません。
(2)デメリット
民事訴訟にかかる時間と労力は想像以上のもので、多くの人は「2度とやりたくない」と感じます。また、今後の相手方との関係も気になるところでしょう。
以下3点を踏まえて「訴訟に求めること」そして「提起すると犠牲になるもの」を明確にしておくことが、トラブル解決の要になります。
①時間と費用がかかる
この後「訴訟を起こした後の流れ」で説明しますが、判決までの時間は少なくとも月単位でかかります。1年以上かかることも珍しくありませんし、事案によっては数年に及ぶこともあります。その上、訴訟を起こすためには申立手数料や予納郵便切手、各種書類の交付手数料……とさまざまな費用がかかります。
また、仮処分の申立等、相手方に万一にも損害を与える可能性のある手続きでは、まとまった額の「担保金」を用意しなければなりません。
②今後気まずい関係になるの可能性が高い
想像するというまでもないことですが、訴訟の結末がどうであれ、相手方との関係が気まずくなることは避けられないことが多いでしょう。親族なら家庭行事に参加しづらくなり、近隣の人なら日毎に気疲れしてとうとう引越しせざるを得なくなるかもしれません。提訴にあたっては、ある程度「縁切り」を意識しておく必要があります。
③100%勝てる保証はない
もっとも重要なことは、どんなに自分の方に分があっても、100%勝訴判決が得られる保証がないことです。弁護士に依頼してさえ、万全とはいえません。
判決言渡しで望みどおりの結果が得られなければ、ただの骨折り損になります。勝てる見込みについては、弁護士のアドバイスを聞いて冷静に判断しましょう。
4、訴訟を起こす方法
いよいよ訴訟が必要になった場合、指定された書類と費用を用意して管轄裁判所に提出しなければなりません。以降で紹介するのは法律トラブルに広く適用される知識であり、詳細は裁判所や弁護士に尋ねてみる必要があります。
(1)必要書類
訴訟を起こすのに必要なものは、印鑑や収入印紙を含めて以下の4点で構成されます。
書式が用意されているのは訴訟のみで、最高裁判所のホームページからダウンロードし、当事者情報や請求の趣旨や請求する理由、具体的な事実などを記載します。
訴状×2部(収入印紙付きの正本+被告人に送る副本)
証拠書類のコピー(貸付時に作った借用書等)
認印(実印である必要はなし/スタンプ式不可)
申立手数料分の収入印紙
(2)提訴に必要な費用
提訴のための費用は、申立費用・郵便切手代・必要書類の交付手数料で構成されます。申立費用は法律(早見表はこちら)で、郵便切手代は管轄裁判所で指定があり、それぞれ以下のように変動します。
申立手数料:最低1千円(訴額※による/300万円以下なら10万円ごとに+1千円)
郵便切手代:6千円前後(管轄裁判所による)
※訴額とは
……原告が主張する利益の価値を指します。貸金返還請求訴訟なら「貸したまま返ってこない額」、不動産の権利に関する訴訟なら「その不動産の額」等です。
(3)書類の提出先
残る問題は訴状の提出先、つまり法律上の管轄裁判所です。調べる際は、トラブルが発生する前の契約書や借用書を確認し、管轄裁判所の合意の有無をチェックして下さい。
①管轄裁判所について合意がない場合
特に取り決めがない場合は、各地の裁判所一覧で相手の住所地を管轄する裁判所を調べ、そこに訴状を提出します(民訴法第3条の2)。管内の裁判所といっても4種類ありますが、第一審では訴額140万円以下なら「簡易裁判所」、訴額140万円を超過するなら「地方裁判所」になります。
②管轄裁判所について合意がある場合
何らかの契約を締結する場合は、万一に備えて「本件に関する一切の紛争について○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」との規定を設けることもあります。このケースでは、その契約書にある合意管轄裁判所に訴状を提出しなくてはなりません。
契約によっては、稀に「相手の住所地の管轄裁判所」と「合意管轄裁判所」のどちらでも提訴できる場合があります。
配信: LEGAL MALL